第12回理科教育賞・第6回リカジョ育成賞贈呈式 レポート
公益財団法人日産財団は2023年8月4日(金)「第12回理科教育賞・第6回リカジョ育成賞贈呈式」を、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズで実施し、オンラインでのライブ配信もしました。両賞とも、受賞各校・団体による成果発表を経て、選考委員が理科教育賞の大賞に成城学園初等学校、またリカジョ育成賞のグランプリに高知工業高等専門学校を選出しました。
新しくなった理科教育助成の対象校から理科教育賞を選出
リカジョ育成賞は6回目
第12回理科教育賞の対象となる「日産財団理科教育助成」の期間は、2022年1月から12月までで、今回から1年間です。また、初めて助成対象地域が全国となりました。第6回リカジョ育成賞の対象となる応募者の取組期間は2022年の1年間です。
冒頭、日産財団理事長の久村春芳が、「車や人工知能に見られるような技術進歩で、小中学生が社会で活躍するころは、いまとまったく異なる状況になるでしょう。日産財団も進化に目を向けた発想が要求されます。理数系教育をベースに社会問題解決や価値創造をめざすSTEAM教育、そして女性の活躍を支援していきます。参画者の活動に経緯を表し、受賞者の栄誉を讃えます」とあいさつしました。
日産財団理事長の久村春芳
リカジョ育成賞グランプリ候補3団体が成果発表
リカジョ育成賞の成果発表会では、まず、内閣府男女共同参画局長の岡田恵子さまからいただいたビデオメッセージを上映しました。
「世界経済フォーラム『ジェンダーギャップ指数2023』で日本は146か国中125位、また科学技術分野の女性研究者割合も諸外国より著しく低くあります。すべての女性が輝く令和の社会の実現に向け、政府は『女性版骨太の方針2023』を策定しました。女子中高生・保護者・教員にロールモデルの出前授業を展開します。日産財団の各賞は次世代ロールモデルを生みだす素晴らしい取組です。ご発表者も重要な取組を実施され、心強く感じます」
内閣府男女共同参画局長の岡田恵子さま
2022年6月から2023年1月までの公募期間にあった62件の申請から選考委員会が選んだグランプリ候補3団体による成果発表と、選考委員との質疑応答がおこなわれました。
大阪公立大学理系女子大学院生チームIRIS(I’m Researcher In Science)は、「地域のロールモデルとして活躍し、成長するIRIS」という取組の成果を発表。2011年の発足以来、女子大学院生メンバーが実験教室「サイエンス・キャンパス」や、オープンキャパスでの進路相談会などの開催を重ねてきたことを報告。地域の女子中高生のロールモデルとなり、自身らも能力を身につけていく相互成長があると強調しました。
大阪公立大学女性研究者支援室長の真嶋由貴惠さん(左)と同室女性研究者支援センター副センター長の巽真理子さん
高知工業高等専門学校は、「リケジョの力で高知を元気に!! 〜TGKの取り組み〜」という取組の成果を発表しました。女子学生主体で活動するTGK(Techno-Girls of Kochi kosen)の「女子に科学のおもしろさを知って理系の道へ進んでもらいたい」といった思いを紹介。「リケジョ☆ひろば」などの各活動で、かならず「カワイイ」を取り入れ、参加者みなが楽しめる内容にするようにしていると伝えました。
高知工業高等専門学校ソーシャルデザイン工学科3年でTGKメンバーの澤田朱夏さん(左)と准教授の多田香織さん
お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所は、「女子中高生の理系への進路選択を後押しするために」というタイトルで成果発表をしました。女子学生・生徒の理工系分野の選択促進や人材育成といった同所の目的を紹介。進路が未決定、理系への関心が芽生えた、理系進学を考えているといった各層の女子生徒・学生に向け、それぞれ「陸の植物観察会」「リケジョ-未来シンポジウム」「リーダーシップセミナー」などの企画を展開していることを伝えました。
お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所所長の加藤美砂子さん(左)と副所長の雨宮敏子さん
質問をする選考委員。左上が選考委員長・長谷部伸治氏(京都大学国際高等教育院特定教授)。その右から時計回りに、委員の稲田結美氏(日本体育大学教授)、岡田努氏(福島大学教授)、久保田善彦氏(玉川大学教授)、小野瀬倫也氏(国士舘大学教授)、人見久城氏(宇都宮大学教授)、森藤義孝氏(福岡教育大学教授)
理科教育賞大賞候補3校が成果発表
理科教育賞の成果発表会では、「日産財団理科教育助成」2022年度の対象49校から選出された大賞候補4校が成果発表をしました。
牛久市立牛久第二小学校は、「理科における問題解決の力を育てる学習指導の在り方」というテーマで取り組んだ研究の成果を発表しました。ペア実験や1人1実験の機会を多くもたせたことや、情報通信技術の活用としてSKYMENUを導入したこと、6年生がポスターセッションでの発表に臨んだことなどの実践内容を伝えました。「児童は人やものに関わることで伝えあう機会が増え、問題解決への意欲やスキルを身につけた」と成果を述べました。
牛久第二小学校の浅野幸代先生
成城学園初等学校は、「『プロジェクト解決ハイブリッドカー』から新たな価値を創造できる子を育てる」というテーマでの研究の成果を発表しました。学年を超えた「車」の「大単元」を設け、6年生「電気の利用」で「プロジェクト解決ハイブリッドカー」をチームでつくった事例を紹介。エネルギーに対する見方・考え方の変容など複数の成果を得られたと報告しました。また、理想と現実の差を埋めようとしたチームで自己肯定感が高まったとする考察も報告しました。
成城学園初等学校の岡崎真幸先生
東京学芸大学附属竹早中学校は、「科学技術の開発や科学理論の発見過程から創造的な思考力の育成を目指す理科学習」というテーマでの研究の成果を発表しました。科学者の視点での探究が、生徒の創造的思考力の育成にいかに寄与するかを研究の目的としたと伝えました。「科学的な思考力」と「創造的な思考力」の相互連関性なかで、生徒から主体的に科学的な探究に取り組む姿が見られたと報告しました。科学史とSTEAMの観点をカリキュラムに入れた点も紹介しました。
東京学芸大学附属竹早中学校の中込泰規先生
鉾田市立鉾田南中学校は、「地域資源を活用したエネルギー・環境教育の実践」というテーマの研究の成果を発表しました。地域資源を活用した教材の開発が、生徒の主体的活動につながるなどの仮説に対し、餅米苗やトマトを栽培するといった手立てを講じて取り組んだところ、仮説どおりの成果を得られたと伝えました。また「根底にあるのはモノを大切にして、有限なものを次の世代にまわすこと」と加えました。
鉾田南中学校の窪谷理先生
「先生のためのオンラインラボツアー」を実施
続いて、オンラインご視聴者をふくむ贈呈式参加者みなさんに「先生のためのオンラインラボツアー」をお届けしました。
左から日産自動車研究企画部部長の山村智弘氏。日産自動車総合研究所モビリティ&AI研究所の平松真知子氏。日産自動車総合研究所横浜ラボの斎藤大介氏
日産自動車研究企画部部長の山村智弘氏に、日産総合研究所を紹介していただきました。脱炭素社会実現や移動の知能化などの観点から取組をお聞きしました。
また同研究所モビリティ&AI研究所の安全領域スペシャリストである平松真知子氏に、「自動車開発における人間理解の取り組み 〜ペダル踏み間違い防止策の研究〜」という題でお話をいただきました。
さらに同研究所横浜ラボと中継し、シニアマネジャーの斎藤大介氏に、ディープラーニングマシンなどが置かれている研究室内を紹介していただきました。「地に足をつけて、ぶっ飛べ」といった研究チームのモットーも聞きました。
各賞を発表、よろこびの声を聞く
いよいよ各賞の発表です。まず第6回リカジョ育成賞について、長谷部選考委員長が下記のとおり、各賞の結果とグランプリの講評をしました。
第6回リカジョ育成賞
グランプリ
・高知工業高等専門学校
「リケジョの⼒で⾼知を元気に!! 〜TGK の取り組み〜」
「理系への進学を志す女子児童・生徒の増加をねらった、高専女子会組織の活動である。リカジョを増やすことに加え、活動している高専女子学生のキャリア教育にも寄与している実質的な活動として評価します。40名もの学生が学年を横断して主体的に活動に取り組み、その活動や成果を公表する過程を通して成長している様子が報告書や発表から読み取れました。また、女子学生ならではの発想で女子中学生を引きつける実験内容を検討している点も高く評価しました」(長谷部選考委員長)
準グランプリ
・大阪公立大学 理系女子大学院生チームIRIS
「地域のロールモデルとして活躍し、成長する IRIS」
・国立大学法人お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所
「⼥⼦中⾼⽣の理系への進路選択を後押しするために」
なお第6回リカジョ育成賞では「奨励賞」16件も選出しています。こちらで受賞者の一覧をご覧いただけます。
グランプリに輝いた高知工業高等専門学校の澤田朱夏さんからお言葉をいただきました。
「私が工業系の学校に進んだのは、科学のおもしろさを知る体験があったからです。子供は自分の経験から進路・未来を考えるので、いろいろな取組があるなかで、私たちTGKもがんばっていきたいと思います」
第6回リカジョ育成賞グランプリ・準グランプリ受賞者と選考委員・日産財団理事による記念撮影
続いて、第12回理科教育賞について、長谷部選考委員長が下記のとおり、各賞の結果と大賞の評を発表しました。
第12回理科教育賞
大賞
・成城学園初等学校
「『プロジェクト解決ハイブリッドカー』から新たな価値を創造できる子を育てる。」
「ハイブリッドカーを題材とした、既存教科である理科との関係性もしっかりと考慮されたSTEAM教育として評価します。時期をずらせて実施するなどの未知の単元指導における配慮や、事前・事後のGoogleフォームでのアンケートによる成果の測定なども評価できます。意欲的な発展途上の実践と推察でき、今後の更なる展開に期待します」(長谷部選考委員長)
理科教育賞
・茨城県 牛久市立牛久第二小学校
「理科における問題解決の力を育てる学習指導の在り方」
・東京都 東京学芸大学付属竹早中学校
「科学技術の開発や科学理論の発見過程から創造的な思考力の育成を目指す理科学習」
・茨城県 鉾田市立鉾田南中学校
「地域資源を活用したエネルギー・環境教育の実践」
ポスターセッション賞
・福島県 小野町立小野小学校
大賞を受賞した成城学園初等学校の岡崎真幸先生からお言葉をいただきました。
「子供たちは授業のなかでお金と時間がないと車はつくれないと言っていましたが、私たちも(理科教育助成の)お金と時間があって研究ができたものと思っています。助成いただいた日産財団、そして自由な研究ができる成城学園に感謝します」
第12回理科教育賞受賞校先生と選考委員・日産財団理事らによる記念撮影
各団体・学校のみなさま、ご受賞おめでとうございます。また、理科教育助成・リカジョ育成賞にご応募いただいたすべてのみなさまにお礼を申しあげます。