「STEAM × デザイン思考」を軸に、人間に興味をもつ世代を育成する――一般社団法人スカイラボ

第5回リカジョ育成賞 準グランプリ

「デザイン思考を英語で学び⼈間中⼼のアプローチで SDGs の社会課題に取り組む、⼥⼦⾼⽣対象の STEAM ワークショップ」

インタビュー:一般社団法人スカイラボ 共同創設者 ヤング吉原麻里子さん・木島里江さん
(実施日:2022年9月12日)

科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)領域で活躍する人材を育成するためのSTEM(ステム)教育や、そこに芸術・人文をふくめたリベラルアーツ(Art)の考えを加えた「STEAM」というアプローチが、人材育成のキーワードの一つとなっています。

また、イノベーティブな発想につながる「デザイン思考」という思考法が、多岐にわたる分野で重視されています。

デザイン思考を教育のツールにつかってグローバルな課題に取り組むワークショップを実施し、女子高校生を中心に次世代を担う若者をSTEAM人材として育てていく。このような取り組みをしているのが、一般社団法人スカイラボです。ワークショップに参加した生徒たちには、科学技術領域への関心や自己効力感の高まり、相手に寄り添って発想するためのエンパシーの向上といった変化が見られました。日産財団は「第5回リカジョ育成賞」で、スカイラボのこうした取り組みに対し、準グランプリを贈っています。

今回、スカイラボの共同創設者である、ヤング吉原麻里子さんと木島里江さんに、スカイラボをはじめた経緯や目指すもの、デザイン思考を取り入れたSTEAMワークショップの内容、今後の抱負などを聞くことができました。STEAMとデザイン思考がめざすのは「人間好きの人間を育てること」だというお二人から、次世代の人材を育てるための明確な目的意識について聞くことができました。

シリコンバレーでの出会いと再会、スカイラボ創設へ

――スカイラボは2016年に創設されました。その経緯を伺います。

ヤング吉原麻里子さん(以下、敬称略) 私と(木島)里江さんは、2008年に、恩師を通じて出会いました。二人には、日本の教育制度で学んだのちに留学し、スタンフォードの大学院で博士号を取得したという共通項がありました。とはいえスカイラボを一緒に立ち上げることになったのは、シリコンバレーという土地で育児をしていた体験からだと感じています。ジェンダーや年齢や国籍に関わりなく、さまざまな人が可能性に挑戦し続けている場所で子供たちを育てることになって、自分たちが受けた教育や育ってきた環境を振り返るきっかけに繋がったと思っています。

私の場合、ある日の出来事が発火点の一つになっています。子供が通っていた公立小学校の放課後の教室で、一心不乱にレゴを作っている女の子を見かけたのです。その熱中の仕方が普段とは違っていて、気になって聞いてみると、嬉しそうな瞳で「わたしがつくるロボットが動くんだよ」と教えてくれました。どうやら簡単なプログラムを学んで、自分が組み立てるレゴの塊を動かそうとしていたのです。私も幼いころレゴが好きでよく遊びましたが、それを使ってエンジニアリングを経験する機会などはありませんでした。かよっていた女子校では人文系の授業が充実していて、進学した女子大学には文学部しかありませんでした。文学が大好きでしたので充実していましたが、もしも自分が幼い頃にこうして楽しくステムに触れる機会があったなら、もしかすると、この少女のように背中を丸めて熱中していたのかもしれない。女子なら文系という社会的風潮のなかで、他の道を考えることなく、あたりまえのことのように人文を選択したことの意味を考えるようになりました。それから何十年たっても、日本で女子がステムにふれる機会は限られたままと知り、悶々と「なにかできないだろうか」と考えるようになりました。そんなときに、人間中心の視点で医療デバイスを開発するというスタンフォード大学の教育プログラムのことを知り、興味を持って調べるようになりました。木島さんとばったり再会したのも、ちょうどその頃でした。教育や社会科学を学んだ私たちだからこそ、日本のガールズたちに何かできるのではないかという話で意気投合したことを覚えています。

木島里江さん(以下、敬称略) おなじころ、たしかに私も「発火点」になる何かを抱えていました。私は大学院で国際比較教育を学び、卒業後は国際機関に戻って途上国の教育に携わる仕事をしたいと思っていました。けれども、二人の子どもがいる生活になって長期の出張がままならず・・複雑な心もちでした。そんな頃、米日カウンシルという公益財団のリーダーシップ・プログラムに参加し、仲間たちから大きな刺激を受けたのです。そこで自分の子どもたちには、日米の架け橋になるように育ってもらいたいという思いが強くなりました。

そうして土曜日に子供が通い始めた日本語補習校で、久しぶりに麻里子さんと再会し、時間を忘れるほど話をしたのです。シリコンバレーのこどもたちは、本当に楽しくSTEMを学んでいる。そんな学びを日本の子供達にも届けたい、自分たちが触れることのなかった新しい教育の機会を提供できないだろうか、と。イノベーティブな発想を育てるアプローチとして注目されていたデザイン思考を、まずは学ぶことから始めようとなり、二人でいろいろな授業やプログラムに参加しました。デザイン思考を中等教育の現場に応用する研究と実践をされていたシェリー・ゴールドマン教授から沢山の有益なアドバイスをいただき、スタンフォードやシリコンバレーで出会った多くの方々のお力添えを受けながら、2016年の夏休みに、始めて東京でワークショップを開催することができたわけです。

(左)ヤング吉原麻里子さん。聖心女子大学文学部卒業。スタンフォード大学で博士号取得(政治学)。イノベーションをめぐる制度と人材の国際比較研究をおこなう。スタンフォード大学国際相互文化教育プログラム(SPICE:Stanford Program on International and Cross-cultural Education)講師。(右)木島里江さん。国際基督教大学教養学部卒業。スタンフォード大学で博士号を取得(教育学)。世界銀行で女子教育、貧困層、マイノリティのための教育政策に注力。トロント大学マンク国際問題研究所助教授。

――スカイラボは、次世代のイノベーターたちを育成するため、「デザイン思考」を使ってクリエイティブな発想の仕方を身に付けるワークショップを、日本の女子中高生に提供しているとのことですね。

ヤング そうです。スタンフォード大学のデザインスクール(d.school)などで開発されたデザイン思考のメソッドを参考にしながら、5年かけて日本の生徒さんを対象に実施と改良を繰り返してきたカリキュラムは、唯一無二のユニークなプログラムになっていると思います。たとえば私たちのワークショップでは、STEAMという概念をキーワードにして、人間中心の発想でものづくりすることの楽しさを体験してもらうことで、STEM領域を身近に感じてもらえるような工夫をしています。これまで研究者たちが、STEM領域に女子学生が少ないことの背景に、数学や科学という領域では女子の自己効力感が男子に比べて低いことや、STEM領域で活躍する女性のロールモデルが少ないこと、ステム領域での活躍を女子に期待する社会的風潮がすくないことなどを指摘しています。そこで私たちは「女子だから」「女子なのに」という枕詞を取り外して自由に発想し、世界に向けて自分のアイデアを発信していくための、無限の空間のような学びの場を提供したいと考えて、スカイラボをつくりました。

私たちのプログラムでは「型にはまらず発想する(Think out of the box)」「ひとまずやってみる(Give it a try)」「つまずくことで、飛躍する(Fail foward)」という3つのメッセージを繰り返し参加者に伝えるようにしています。これらはデザイン思考を実践するイノベーターたちが大切にしているマインドセットです。

木島 「可能性は無限(Sky’s the limit.)」という考え方が、スカイラボの活動の原動力となっています。

STEAMとデザイン思考は「人間」でつながっている

――女性の人材育成をミッションにされていますが、鍵となるのはSTEMでなく、そこにA
が加わった「STEAM」なのですね。

ヤング はい。最近日本でも「STEAM」という言葉を聞いたり、メディアで見かけたりするようになりました。とはいえ、多くの方々が「A」は“Art”と考えておられるようです。たとえば数学の授業で折り紙をつかったり、理科の実験にアートを導入したり。たしかにアートは発想や活動に創意工夫をもたらしてくれる重要な領域です。けれども私たちは、STEAMのAにはいるのはアートやデザインだけではないと考えています。Aとは、人間に興味をもち、人を大切にする気持ちであり、それを育むのは、人間について深く思考するための「リベラルアーツ」とよばれる学問領域であると考えています。

木島 教育学の流れからすると、教科を個別に教えていたアプローチから、より融合的な学びへと学問の主流が移ってきているわけです。たとえば数学者は数学を考えたり教えたりするだけでなく、科学者やエンジニアと連携してなにかを創りあげていくような、インターディシプリナリーな学問体系が生まれています。

――STEAMとデザイン思考の関係を、どのように捉えていますか。

木島 麻里子さんが言ったようにSTEAMのAで「人間とはなにか」を探るところと、デザイン思考のいちばん大切な部分である「人間中心の発想」は、非常に合致していると捉えています。デザイン思考の本質は、常に人間のニーズを中心にものづくりをするところ、つまり、作り手がこうであるべきという押しつけでなく、使う人が本当に必要としているものに焦点をあてながら発想していくところにあります。

この人間中心の考え方は、日本の文化に広く浸透しているものではないでしょうか。たとえ「デザイン思考」ということばを使わなかったとしても、日本人のものづくり文化のなかでは、理解し受け入れてもらいやすいアプローチではないかと思います。

デザイン思考に沿って進むワークショップ

――女子高校生対象の教育プログラムを展開されてきました。デザイン思考を英語で学び、最終日には英語でプロトタイプの発表をするそうですね。ワークショップの内容を伺います。

ヤング 基本的にはデザイン思考のプロセスに沿って進んでいきます。


スカイラボ式にデザイン思考のプロセスを可視化した図。「1 Empathize 相手の心に寄り添う」「2 Capture Needs ニーズを抽出する」「3 Brainstorm Solutions アイデアを出し合う」「4 Prototype 試しに作ってみる」「5 Get feedback フィードバックをもらって改良する」というステップをいったりきたりしながら、チームの発想をユーザーが手に取れる形(プロトタイプ)にしていく。(資料提供:スカイラボ)

一連のプロセスのなかで、スカイラボのプログラムで特に重視しているのは“Empathize”、つまりユーザーのおかれた状況に思いを馳せて相手の心情に寄り添う作業です。ワークショップに参加する生徒たちは、ユーザーとして参加するボランティアにインタビューをおこない、その方を喜ばすようなアイデアを「サステイナビリティー」というテーマに絡めて発想するわけです。そのためには、ユーザーがどんなことを考えたり、感じたりしているのかを知る必要があります。よい質問をして相手から対話をひきだすわけです。これは大人にだって簡単なことではありません。エンパシーを使って肖像画を描く作業では、インタビューで得たユーザーに関する気づきを、抽象度を高めて表現します。ユーザーが抱える課題を発見して、チームで協力しながら発想し、手に取って試せるプロトタイプにして、ユーザーからフィードバックをもらい改良していく。女子生徒たちは人間を中心に発想する方法論を学び、「ものづくりを通してこんなに人を喜ばせられるのだ」と目を輝かせます。

木島 発想の段階では“Think out of the box.”というマインドセットを強調します。常識という箱からはみ出た発想こそがイノベーションにつながるからです。日本にいる女子生徒たちは、「こうすべき」「これが正しい」という多くの規範の中で暮らしています。無意識のうちに自分の発想に制約をかけているかもしれません。ワークショップではあえて「それってありえない」と言われそうなアイデアをどんどん出してもらいます。チームメイトが突拍子も無い発想をしても“No, but…”と否定せずに、まずは“Yes, and…”と肯定的に受けとめて、そこに自分のアイデアを足していく作業を促します。どんな発想でも受け入れらえるという心理的に安全な環境をつくることで、生徒たちは自由に発想していく楽しさを学びます。

ヤング デザイン思考では、使う人の立場に寄り添って改善をつづけるプロセスこそが、最終ゴールに到達するよりも大事であると学びます。女子学生さんたちはともすると自分たちに完璧を求めがちです。そこで、”Give it a try”―とりあえず試してみる”というマインドセットを強調します。プロトタイプはむしろ不完全である方が、ユーザーさんから沢山のフィードバックを引き出るでしょう。フィードバックはニーズに寄り添いきれているかを試す貴重なチャンスで、ユーザーからの批判は相手のニーズを深掘りするための貴重なチャンスであり、アイデアの失敗を、最初は考えもしなかった改良に繋げることができるという「Fail forward―失敗することでより遠くまで飛躍する」のマインドセットを学んでもらいます。


ワークショップのようす。(写真提供:スカイラボ)

生徒たちに大切な「ニアピアメンター」の存在

――ワークショップには、どんな人が参加しますか。

ヤング 新しいことを学んで挑戦したい、普段と異なる発想の仕方で飛躍してみたいと考えている女子生徒さんを対象に、公立・私立から幅広く参加者を募っています。2016年からこのワークショップを実施して毎年感じるのですが、日本の女子生徒さんたちはエンパシーを使って相手のニーズを汲み取り、仲間と協働しながら発想し、また手を使ってものづくりする作業にとても向いています。一方で、自分たちのアイデアを人前で発表すること、英語でコミュニケートすることになれていません。そのためにスカイラボのプログラムでは、バイリンガルの大学生・大学院生が「デザインコーチ」として中高生にしっかりと寄り添い、講師の授業をやさしい英語で言い直したり、時には日本語に訳したりします。里江さんが言った「型にはまらない発想」を生徒たちに促すには、心理的に安全な環境づくりが肝心であり、デザインコーチが果たす役割は極めて重要です。デザイン思考を英語で学ぶという挑戦に初日は戸惑う女子学生さんも、デザインコーチたちの手厚いサポートで、最終日には英語で堂々とプロトタイプを発表するまでに成長します。人間中心の発想法を学んで自信をつけた女子生徒さんたちの様子に、デザインコーチたちもまたエンパワーされています。毎年、ユーザーが感銘をうける独創的なプロトタイプが生まれて、会場の参加者も驚くほどです。科学技術立国を目指す日本でもっとイノベーションを生み出すためには、若い世代が常識にとらわれない発想で、世界を意識して自分たちのアイデアを発信していく必要があります。2021年のプログラムに参加した中学3年生の女子学生さんが、自分にも世界を変えられるかもしれないと思えたことが、何より大きな成長だったと感想を述べておられます。

木島 プログラムに参加する中高生にとって、デザインコーチは身近で大切なロールモデルです。ワークショップを実施するたびに、デザインコーチが果たす役割が極めて重要であることを実感します。そこでスカイラボでは、デザインコーチ向けの研修プログラムにも力を入れています。


2022年8月開催「第5回リカジョ育成賞贈呈式」ではアンバサダーの楊理咲子さん(左)と石井南帆さん(右)が登壇して活動報告をした。二人とも、過去にデザインコーチとしてワークショップに貢献している。

ワークショップ参加でSTEAMへのイメージが変化

――プログラムがもたらす成果についてお聞きします。スカイラボのワークショップに参加した女子生徒たちには、実際どのような変化があったでしょうか。

木島 過去5年のデータを分析し、その成果を2020年に一本目の論文として発表しました。まず第一に、生徒たちのSTEM領域に対する関心が高まり、第二に、STEMに対するイメージが変わったという結果を得られました。生徒たちは日ごろ、STEM領域で仕事をする人物像を「白衣を着て一人で作業している人」と描きがちでした。けれどもインタビューを通じて、たとえば女性エンジニアが人間中心のアプローチをつかって社会貢献する話に耳を傾け、人との連携を楽しみながらものづくりをする大切さに気づきを得て、STEM領域への関心度を高めて、結果的にSTEMに対するイメージも変わっていったわけです。大きな成果です。

第三に、エンパシーの向上もデータとして見られました。「自分もだれかの役に立つことができる」「だれかのためになるものをつくれる」という気持ちになれたのだと思います。第四に、クリエイティブコンフィデンスの向上が見られました。つまり「自分は創造的な人間なんだ」という自信がついたわけです。第五に、キャリアに対する意識にも変化がありました。企業で活躍する女性エンジニアの方と交流するなどして「女性にもこういうキャリアの門戸が開かれているんだ」と意識するようになったわけです。


アンケート分析で変化の幅が大きく見られた5つの領域。Kijima, R., Yang-Yoshihara M., & Maekawa, M.(2019)“Using Design Thinking to Cultivate the Next Generation of Female STEAM Thinker.”より。(資料提供:スカイラボ)

――論文として発表することを活動に組み込んでいるのですね。

ヤング はい。スカイラボが大切にしているのは、教育と研究を表裏一体ですすめ、エビデンスベースでSTEAM教育を促進していくという点です。ワークショップでカリキュラムを実装しつつ、そこからデータを得て分析し、論文として発表することで、社会インパクトにつなげるという方法です。それが研究者でもある私たちの貢献のしかたであると考えています。今月もインタビュー・データをもとにした分析が論文として出版されました。

抱負は、学ぶ機会の格差是正、エビデンスに基づいた教育開発

――プログラムがもたらす成果についてお聞きします。スカイラボのワークショップに参加した女子生徒たちには、実際どのような変化があったでしょうか。

――今後、どのように事業を発展させていこうと考えていますか。

ヤング 学ぶ機会の格差是正に取り組んで、地方を中心にSTEAM人材の育成を促進していきたいです。活動初期のワークショップには、もっぱら、首都圏の私立校に通う生徒さんが参加されていました。今後は公教育の領域に活動を広げ、また地方を対象に積極的に私たちのプログラムをとどけたいです。

STEAM教育が注目を集めるようになり、私たちの活動に関心を寄せてくださる方々ともこれまで幾度も協議を重ねてきましたが、スカイラボは非営利というスタンスに変わりはありません。私たちが目指す社会貢献は、自分たちの専門である社会科学や教育学といった人文分野の視点をステム教育に取り入れることで、工学や科学に興味を持つ女子学生を少しずつ増やしていくことです。学校教育とは異なる学の機会が少なく、スカイラボに出会わなければ、型にハマらず発想したり、リスクをとって試してみたり、失敗から学ぶことの大切さを学ぶ機会はないままだろうという地方の女子生徒さんたちに向けて、ぜひこれからも活動を展開していきたいと考えています。人間中心のアプローチを普及させることで科学技術人材の育成に貢献していければと考えています。

木島 麻里子さんの考えに同感しています。営利活動にして規模を大きくしていくと、どうしても質を保つことがむずかしくなる面もあります。たとえ規模は小さくても、質を保って活動を発展させていくことが大切というのが、二人の一致した方向であり、私たちの教育哲学です。

ヤング とはいえ教育は長期戦であり、運営のための資金を確保する必要があります。幸い、スカイラボの活動を資金面でご支援くださる企業パートナーや、教育機関や自治体と連携することができています。今年から3年越しで、京都府京丹後市の中高生を対象に、ワークショップを実施することになりました。教育委員会の先生方のご尽力で9月にプログラムを実施し、コミュニティーで活躍するリーダー9名がユーザーとして参加され、35人の生徒さんたちが、コミュニティーの伝統や文化を学び、デザイン思考を使って課題にとりくみました。プログラムに対して生徒、DC、ユーザーがとても肯定的で、プログラム全体に対する評価が極めて高かった様子が測定されています。また10月には、科学技術研究で世界を牽引する沖縄科学技術大学院大学(OIST)との連携で、県内の女子高校生を対象にプログラムを実施しました。最先端のステム領域に挑む博士課程一年目の女性科学者2名がデザインコーチとなり、参加者に大きなインスピレーションを与えていました。エンジニアリングに加えて科学領域でもデザイン思考を学ぶ重要性を確認できたことは、極めて意義深かったと考えています。


京都府京丹後市との連携で、同市の中高生35名、デザインコーチとして参加した京都府の大学生9名を対象に2022年9月に実施したプログラム。今後3年間かけて京丹後コミュニティーの人材育成と教育政策にスカイラボが関わっていく予定。(資料提供:スカイラボ)

人間中心のグローバルな発想法を学び、まちの未来をデザインする次世代リーダーを育てるプログラムでは、京丹後市への興味と関心の高まりが受講生のプロトタイプにも現れていた。(資料提供:スカイラボ)


沖縄科学技術大学院大学(OIST)との連携で2022年10月に実施したプログラム。沖縄で環境問題を研究する科学者やコミュニティーリーダーがユーザーとして参加し、沖縄県在住の女子高校生16名がサステイナビリティーをめぐる課題に取り組んだ。(資料提供:スカイラボ)

木島 京丹後市で行ったプログラムでは、トロント大学やスタンフォード大学の研究倫理委員会の承認をうけた研究デザインで効用を測定しました。その結果、日本の公教育ではまだ十分には取りいれられているとは言い切れない「探求型の学び」を、スカイラボのプログラムで経験できたことが参加者の大きな学びに繋がったというデータもでていて、大きな手応えを感じています。プログラム終了後に行ったフォーカスグループでは、複数の生徒さんが、普段学校ではみなが同じような意見を出しがちななか、このプログラムではみんなが自由にのびのび意見を出し合っている様子が印象だったと述べています。ある学生さんは「自分の考えに付け足されていく感じ。どんどん、考えがどんどん大きくなる感じ。どんどん知識が付け加えられていくから、それが面白い。それに対して面白いと思って、どんどん意欲が湧いてくるっていう感じでした」とプログラムの印象を述べておられます。生徒さんたちが、答えのない課題に自由な発想を展開して、意見をお互いにぶつけながら探求活動に取り組むことができていたといえます。

ワークショップで集めるデータを、今後も、多様な研究者たちと連携して分析をすすめていきます。これからはエビデンスに基づいて教育カリキュラムを改善していくことが重要です。将来、私たちの活動が教育政策などにつながっていく可能性もあります。研究者である私たちにしかできないSTEAM教育を進めていきたいと願っています。