研究発表を通じて「仲間がいる」と実感できる場を提供--リカジョ育成賞受賞者に聞く 学校法人ノートルダム清心学園 清心中学校清心女子高等学校
第4回日産財団リカジョ育成賞 準グランプリ
「『女子生徒による科学研究発表交流会の開催』による全国リカジョネットワーク」
インタビュー:学校法人ノートルダム清心学園 清心中学校清心女子高等学校 研究開発部長 田中福人さん
(実施日:2021年9月10日)
いまなお大学や社会での理系女子比率が低いなか、女子中高生たちが理系を選択するには、「理系に進んでいいんだ」と実感させることが重要といえそうです。同じ理系進路を目指す仲間と交流をもったり、理系分野で活躍している女性からロールモデルを得たりすることは、理系進路への実感をもたせる有効な手立てかもしれません。
こうした課題意識から、女子生徒どうしが学校をこえて交流したり、女性研究者の講演を聴いたりする場を提供しつづける取り組みがあります。学校法人ノートルダム清心学園清心中学校清心女子高等学校は、「『女子生徒による科学研究発表交流会の開催』による全国リカジョネットワーク」を展開し、女子中高生たちにとっての「仲間不足」や「モデル不足」の解消をはかってきました。この取り組みに対して、日産財団は2021年、第4回リカジョ育成賞において、準グランプリを贈りました。
今回、取り組みを主導した同校研究開発部長の田中福人さんに話を聞くことができました。田中さんは、女子中高生にとって、理系に進む自分に自信がもてるようなるには、交流やモデル獲得に加えて、「自分が主役」と思えるような経験が大切だという考えを示しました。取り組みのねらいや、継続・発展のポイントなども伺いました。
「仲間づくり」を通して女子の理系進路拡大をめざす
――今回、リカジョ育成賞の受賞対象となった「『女子生徒による科学研究発表交流会の開催』による全国リカジョネットワーク」では、女子中高生が研究発表を通じて学校を超えた交流を行い、また、女性研究者による講演も実施してきたとお聞きします。取り組むにあたっての課題意識や着眼点はどういったものだったのでしょうか。
田中福人研究開発部長(以下、敬称略) 私たち清心中学校清心女子高等学校は、2006年に文部科学省から「スーパーサイエンスハイスクール」に指定され、研究開発課題として女子理系進学支援に取り組んできました。その一環で「なぜ理系をめざす女子が少ないのか」を考えてきたなかで、「同じ進路をめざす仲間が少ないのではないか。理系の現場で活躍している女性を目にする機会が不足しており、進路像を描きづらいのではないか」という分析結果が出てきたのです。
この課題を解決するためには、女子生徒どうしの交流会を行ったり、理系分野で活躍している研究者たちを招いて実体験を話してもらったりすることが必要だと考えました。
学校法人ノートルダム清心学園 清心中学校清心女子高等学校 研究開発部 田中福人部長。大学院修士課程から理科教育を専攻。大学院に通いながら同校で非常勤講師をつとめる。修士課程を修了した2007年より2年間の常勤講師期間を経て同校教諭に。授業では高校生物をおもに担当。(写真提供:清心中学校清心女子高等学校)
――交流のなかでも、「研究発表」を軸に据えていることのねらいはどういったものでしょうか。
田中 単純に学内外の生徒たちを集めてコミュニケーションをとってもらうだけでは、果たしてうまくいくだろうかという不安はありました。そこで、参加者それぞれが「主役」になれるような試みとして、みずからの研究を発表するかたちで交流をはかることにしたのです。
初対面の生徒どうし自然と交流
――取り組みの中身について伺います。生徒たちが交流会で発表する「研究」とはどのような位置づけのものでしょうか。
田中 私たちの学校についていえば、選択制授業として「課題研究」の時間があり、その中では実験を行うだけでなく、得られた研究成果を発表するところまでを基本としています。生徒たちは、興味ある分野について情報を集め、未解明な点をクリアにし、研究計画を立てて実行していきます。大学での理系生活を事前にイメージしてもらうことなどがこの授業の目的にはあります。
――他校の女子生徒たちにも参加をよびかけていますね。
田中 はい。要項や案内を作成し、全国のスーパーサイエンスハイスクール校を中心に郵送しています。また、近隣の中学校・高校にも郵送し、並行してホームページでもよびかけます。交流会の1か月前までに、発表したい人はお知らせくださいと伝えています。
――初対面の生徒も多くなると思いますが、交流はうまくはかどるものでしょうか。
田中 そのあたりの苦労はありません。女子生徒どうし、同じような研究をしているという感覚をもてば、自然と話が弾み、交流が進んでいくものだなということを主催者としても経験しています。彼女たちは、よい意味で話し好きなので、交流するためのフレームを用意しなくても、あちこちで交流が進んでいきます。
会場に発表のためのポスターがあり、発表の機会を割りあてれば、自然と交流が進んでいくものです。
科学研究発表交流会での女子生徒どうしの交流のようす。(写真提供:清心中学校清心女子高等学校)
――研究発表を通じた交流会とともに、女性研究者による講演も実施していますね。
田中 はい。女子生徒たちにロールモデルを提供し、理系進学意識を高めることをねらいとしています。講師たちは、スーパーサイエンスハイスクールのアドバイザーの先生たちに紹介していただくなど、本校が培ってきた人脈を最大限、活用しています。
人脈と情報収集を生かし取り組みを全国展開
――2009年に第1回を実施し、以降は毎年開催し、回数を重ねてきました。広島県での開催から始め、のちに京都府や東京都での開催と、全国に展開していったと聞きます。参加人数も増加傾向にあるそうですね。会を発展させていく上でのポイントはどういったものですか。
田中 第5回までは広島県内で開催し、毎年、参加していただける学校が固定化してきました。会場を別の場所に移しても、既参加校の多くは参加なさるだろうということ踏まえて、第6回には京都府内の京都大学で、第7回以降は東京都内の慶應義塾大学や学習院大学で開催することにしました。
大学を会場にできたのは、スーパーサイエンスハイスクールのアドバイザーの先生がこれらの大学におられるからです。「先生の大学で開催したいのですが」と提案・相談しました。
各大学の先生に会場をおさえていただけるので、会場費などを負担をなくすことができます。それだけでなく、有名大学の会場で発表できるとなると、多くの中学・高校やその生徒たちが「参加してみようかな」と思ってくれるようで、その利点も感じています。
発表交流会における研究発表件数と参加者数の推移。(資料提供:清心中学校清心女子高等学校)
――さらに、2017年度からは全国大会と並行して、地方大会も実施してきたと聞きます。経緯はどういったものですか。
田中 全国大会を東京都内で実施するなどして、たしかに参加者数は増えました。しかしながら、交通費は自己負担をお願いしていますし、遠方の地域の学校は参加しづらいという課題は残ります。私たちのほうが、各地に出向いていかなければと考え、地方大会も開催することとしました。
――四国地区の地方大会では愛媛大学、東北地区では東北大学、沖縄地区では沖縄科学技術大学院大学と連携したといいます。各大学・大学院には、どうよびかけたのですか。
田中 女子の理系支援が国の課題となっているなかで、大学も同様の支援活動をしているものです。とりわけ、男女共同参画などに関する部署を設けるなど活動に積極的で、本校の取り組みに理解のある大学を中心に、連携のよびかけをしてきました。
地方大会のようす。左上から時計まわりに、愛媛大学、東北大学、奈良女子大学、沖縄科学技術大学院大学との連携による大会。生徒の研究発表と研究者による講演などを実施。(写真提供:清心中学校清心女子高等学校)
――毎回の開催にあたり、重視してきたことはどういったことでしょうか。
田中 早めの広報活動は大切と思っています。交流会開催の半年前には企画をし、3か月ほど前には要項を完成させます。毎年10月か11月に開催しているので、夏休み明けには各校に案内を郵送できるようにします。
取り組みに参加している人たちに人脈を生かしてもらったり、スーパーサイエンスハイスクールの大会で知り合った先生に参加や協力を要請したりと、そうした地道な活動を積み重ねていくことも大切です。
――開催時期を10月から11月にしているのはどうしてですか。
田中 リサーチしたのですが、この時期であれば他の学校行事がさほどないからです。定期試験ともずれていますしね。
交流会で知った先生のいる大学に興味をもつ生徒も
――科学研究発表交流会を実施してみて、参加した女子生徒たちにはどのような変化が見られましたか。
田中 本校の女子生徒の例にはなりますが、まず研究の仕上り具合が相当に向上します。交流会に参加する以上は、実験をきっちり行い考えを整理しますし、発表することにより課題も明らかになります。教員にとっても、研究は発表してこそ完結するものということを示す機会になります。
進路面では、統計をとったわけではありませんが、交流会や講演への参加を通じて面識をもった先生の所属している大学に進路先として興味をもつ生徒が見られます。「この大学へ行ってみたい」となるきっかけになるのでしょう。直接的な経験は、大学のサイトなどを見るのとはまたちがう影響・効果をもたらすものだと思います。
対面とオンラインの最適化を模索
オンラインを活用した研究発表交流会。(左)2020年8〜9月、Zoomミーティングを用いた発表交流会。12校の女子生徒が計17件の発表を行った。同年11月、動画サイトを用いた発表交流会。25校の女子生徒が計84件の発表を行った。(写真・画像提供:清心中学校清心女子高等学校)
――2020年度からはコロナ禍の時代を迎えました。取り組みはどのように変化していきましたか。
田中 他の取り組みもそうでしょうが、オンラインも活用した最適な取り組みを模索するようになりました。2020年度は、発表希望者から研究発表動画を投稿してもらい、そこに視聴参加者がメッセージを入れることで交流する形式を試行しました。
2021年度からは、オンライン上に会場を用意して、ライブ形式で交流会を実施することで考えています。バーチャルな会場に参加者たちがアクセスし、参加者の分身であるアバターのようなアイコンを通じて、興味ある発表ブースに行って、発表者と視聴者がコミュニケーションをとり交流を深めるような形です。
最終的には、対面形式とオンライン形式の両方のよいところを生かしていくことになると思います。
「自分が主役」と思える場を提供していきたい
――最後に、長年、取り組みを続けてきて、理系の女子を育成する上で重要と考えていることがあれば伺います。
田中 アンケートで、「あなたは女性が理系で活躍しやすい社会だと思いますか」といったことを聞きます。すると、生徒たちでは9割ほどが肯定的な回答をしてきます。いっぽう、大人の教育関係者たちに同じ質問をすると、肯定的な回答は5〜6割にまで落ちてしまいます。このあたりの大人の意識を、もうすこし生徒たち寄りにシフトできれば、もっと気軽に生徒たちは理系にチャレンジできるようになるのではないかと思います。
交流会などに参加してくれる生徒たちは、理系に肯定的に捉えているものと思うので、「自分が主役」と思える場をいかに多く用意するかに取り組んでいければと思います。主役になれる機会が増えれば自分に自信がもてるようになり、進路選択も明確にできるようになると思うからです。