小中高生へのリカジョ育成で自分たちも成長を遂げる――大阪公立大学 理系女子大学院生チームIRIS(アイリス)
※2022年は大阪公立大学のIRISとして、Tシャツの色を紫色へと一新しました
第6回リカジョ育成賞 準グランプリ
「地域のロールモデルとして活躍し、成長する IRIS」
インタビュー:大阪公立大学女性研究者支援室長・情報学研究科教授 真嶋由貴惠さん、女性研究者支援センター 副センター長 巽真理子さん、大阪公立大学理系女子大学院生チームIRIS第13期生リーダー 大学院博士前期課程2年 中尾和佳奈さん、同副リーダー 大学院博士前期課程2年 坂本沙優さん、同副リーダー 大学院博士前期課程1年 赤井茉裕さん
(実施日:2023年10月27日)
理系の女子大学院生チームが主体となり、地域の小中高校生を対象に実験教室や講演会、交流会などをおこなうことで理系女性のロールモデルを示すとともに、自身もサイエンスコミュニケーション力を高める。そのような活動があります。大阪公立大学の理系女子大学院生チームIRISは、府内の小中高生に向けてリカジョ育成活動をおこない、本人たちも企画・運営を通じて自信や成長を実感しているようです。この活動が評価され、IRISは第6回リカジョ育成賞準グランプリを受賞しました。
このたび、IRISを支援する女性研究者支援室長の真嶋由貴惠さん、女性研究者支援センター副センター長の巽真理子さん、そしてIRIS第13期生として活躍中の中尾和佳奈さん、坂本沙優さん、赤井茉裕さんにIRISの発足経緯や活動内容、参加者たちへの影響や自身の成長などについて話を聞くことができました。IRISの活動が、未来のリカジョ育成と、自分たちのスキルアップに確実に結びついていることがうかがえます。
小中高生向け活動を通じ、研究者・技術者としての能力を高める
――IRISはどういったチームでしょうか。
真嶋由貴惠さん(以下、敬称略) 大阪公立大学の理系女子大学院生チームで、学長任命のもと、大学の代表として活動をしています。小中高生向けの活動を通じ、メンバー自身が研究者・技術者としての能力を高めることを主眼としています。2011年に発足し、13年間で436人が活動してきました。IRISは“I am a Researcher In Science”を略したものです。
(上左)真嶋由貴惠さん。大阪公立大学女性研究者支援室長・特命副学長・情報学研究科教授。岡山理科大学大学院工学研究科システム科学博士後期課程修了。博士(工学)。神戸市看護大学助手、産業医科大学助教授、大阪府立大学看護学部准教授・高等教育推進機構教授などを経て現職。(上右)巽真理子さん。大阪公立大学女性研究者支援センター副センター長。大阪府立大学大学院人間社会学研究科修了。博士(人間科学)。大学院在学中、大阪府立大学女性研究者支援センターコーディネーターに。同大学ダイバーシティ研究環境研究所特認准教授などを経て、現職。(下左)中尾和佳奈さん。大阪公立大学大学院農学研究科応用生物科学専攻博士前期課程2年。IRIS第13期生リーダー。(下中)坂本沙優さん。大阪公立大学大学院理学研究科化学専攻博士前期課程2年。IRIS第13期生副リーダー。(下右)赤井茉裕さん。大阪公立大学大学院工学研究科物質化学生命系専攻応用化学分野博士前期課程1年。IRIS第13期生副リーダー。
――発足の経緯はどのようなものでしたか。
真嶋 日本では理系の女性研究者も女子大学院生も少ないので、大阪府立大学でも理系の女性研究者を増やしていかなければいけないという課題がありました。IRISが発足する前、女性研究者支援センターが主催する地域の子どもたちを対象とした科学実験教室やオープンキャンパスにスタッフとして参加する理系の女子大学院生を募集したところ、積極的に参加してくれる人が多かったので、その後、彼女たち自身が地域の女の子たちに向けた科学実験教室などを主体的に企画運営するチームとしてIRISを立ち上げました。IRISは大阪府立大学で発足しましたが、2022年に大阪府立大学と大阪市立大学が統合してからは、大阪公立大学のチームとして活動しています。
――大学院生のみなさんに、IRISに入った経緯をお聞きします。
中尾和佳奈さん(以下、敬称略) 学部生として大学に入学したときから、大学院にリケジョが集まるIRISがあると知って、純粋に「楽しそう」と思っていました。団体活動に不慣れではありましたが、理系の友だちができたらと思い、IRISに入りました。
坂本沙優さん(以下、敬称略) 自身の経験から、「勉強は身がまえるものでない。化学は身近にあるものだ」といったことを若い子たちに捉えてほしいと思い、IRISで活動しようと考えました。大学院生になって所属キャンパスを移ったため友だちがほしかったことや、部活動の先輩からIRISのことを教えてもらっていたこともきっかけです。
赤井茉裕さん(以下、敬称略) 研究室の先輩から紹介され、1期上のIRISの活動を見て「楽しそう」と感じ、参加しました。研究以外の活動もし、視野をさらに広げたいという思いもありました。
科学実験や進路を題材にコミュニケーション
――IRISの活動内容をお聞きします。概要やねらいと、活動してみての実感などを伺います。
巽真理子さん(以下、敬称略) IRISの中心的な活動の一つに「IRISサイエンス・キャンパス」があります。企画から運営までをIRISのメンバーが担う、科学実験教室です。大阪府の市町村の男女共同参画センターや小中学校などからの依頼を受けて、学外で活動しています。IRISのメンバーそれぞれの専門性を活かしつつ、その専門性をかみ砕いて子どもたちに伝えていく必要があるため、サイエンスコミュニケーション力やスキルを身につけられる機会になります。
坂本 毎回、気をつけているのは、むずかしい言葉を決して使わないことです。たとえばスライムをつくる実験では、つい分子レベルで原理を説明したくなりますが、子どもたちの学習度合を考えて、ある程度で抑えたりします。また、材料の誤飲などを起こさないよう、安全面にも気をつかっています。
IRISサイエンス・キャンパスの流れ。(資料提供:大阪公立大学理系女子大学院生チームIRIS)
――大学のオープンキャンパスでも、催しものを開催しているようですね。
巽 はい。「進路相談座談会」は、大学のオープンキャンパスの時に、女子高校生たちから、勉強のしかたや、学生生活をするうえでの心配ごとなどをIRISのメンバーに相談する企画です。
中尾 高校生たちから「国語が苦手で、受験勉強をどうしたら」といったお悩みから「大学院でどのような研究をしているのか」といった専門的な問いかけまで、さまざま相談ごとを受けました。私たちは、自身の体験を踏まえ答えますが、ほかのメンバーが答えるほうが相応しい相談もあるので、中百舌鳥・杉本の2キャンパスで実施し、さらに両キャンパスをZoomミーティングでつないで、臨機応変に対応できるようにしました。
――2022年度から「進路講演会」も始めたと聞きます。
巽 「進路講演会」は、IRISのメンバーが大学院までどのような進路を進んできたのかを、女子中高生に向けて話す講演会です。大阪府の市町村の男女共同参画センターから「IRISにきてほしい」と多くのご要望を受けるのですが、IRISサイエンス・キャンパスは、実験のリハーサルを繰り返すなど準備に時間がかかるため、現在より件数を増やすことが難しい。そこで、別のかたちで活動できないかと考えたIRIS担当職員の発案で始めました。進路講演会ならオンラインでも実施できますので、IRISのメンバーにとって活動経験の場数を踏める機会になると思います。
坂本 2022年は、中学2年生を対象に進路講演をしました。高校受験での志望校選びの基準や、おすすめの勉強方法などを話しました。質問を受けるとき、手をあげにくいという子もいるだろうから質問カードを配って、書くことでも質問してもらえるようにしました。
オープンキャンパス、進路相談座談会 進路講演会。(資料提供:大阪公立大学理系女子大学院生チームIRIS)
参加者によい影響をあたえ、メンバー自身が自信を深める
――IRISの活動が、参加者たちにどのような影響をあたえていると見ていますか。
真嶋 とくに感じるのは保護者の方々へのよい影響です。以前は「女の子が理系に進むのはちょっと」といった感じの保護者もいらっしゃいましたが、IRISの活動を続けていくなかで、「娘が理系に行っても大丈夫ですかね」や「理系の学生生活はどうでしょう」と、娘さんが理系に進むことを前提に聞いてくださるようになってきました。
巽 子どもたちは、年齢的に近いIRISのメンバーが講師だと、とても集中して聞いてくれているようです。IRISが身近な理系女性のロールモデルとして、保護者はもちろん、子どもたちにもよい影響を与えていると思います。
――IRISのみなさん自身、活動を通じてどう成長できたと感じていますか。
中尾 多くの人の前で話す経験を積めて、人前に立つことが苦手でなくなってきたと感じます。オープンキャンパスで、私の出身高校の制服を着ている女の子がいたので話しかけたら盛りあがって、その子に「楽しかった」とアンケートで書いてもらえたのが特にうれしかったですね。自分自身や活動に自信を持てるようになりました。
坂本 相手の目線になって考えることができるようになったかなと思います。ミーティングで、女性研究者支援室のスタッフの方にも参加していただきますが、「小学生相手だったら、ここに気をつけてみたらどうだろう」などとアドバイスをいただきます。そうした話を通して、柔軟性が身についた気がします。
赤井 一人でなく、チームとして作業し、ひとつの形に完成させるという経験を数多く得られていて、これからの自身のキャリアに活かせそうです。だれかのためにやり遂げることの成功体験を多く積むことができ、自信につながっています。
リカジョ育成の輪を広げていく
各種メディアによる広報活動。Xアカウント @IRIS_omu。Instagramのアカウント iris_opu_omu。
――今後に向けて、期待や抱負を聞かせてください。
真嶋 IRISは2023年現在、13期生まで続いてきました。IRIS出身者には、大阪公立大学をはじめとする大学の教員(研究者)になった人もいます。これからも、理系女性の研究者・技術者として、ますます社会で活躍していってほしいと期待しています。さらに、IRISを担う後輩の世代に、IRISのよい文化を伝えていってほしいとも思います。IRISが大学院生たち自身で主体的に活動していくことを、女性研究者支援室をはじめ、われわれ教職員はこれからも支援していきます。
赤井 広報の新企画担当をしているので、自分自身が大学入学前に感じたような悩みや不安を解消できるようなコンテンツを、Youtubeなどのメディアでつくっていければと思っています。
坂本 直近に迫っている次回のサイエンス・キャンパスをはじめ、これからの催しものを成功させていければと思います。活動終了までに「これをやった」といえるような成果を残せるようがんばります。
中尾 学外向けの企画では、多くの中高生に集まってもらいうれしく思いますが、学内での学生の認知度はまだ低いと感じています。SNSなどをうまく利用して、学内の理系の女性のみなさんとさらにつながっていけるといいなと思います。