2023年6・7月「未来のリーダー教室 導入編」が静岡雙葉中学校・高等学校で実施されました

日産財団「未来のリーダー教室 導入編」が、2023(令和5)年6月9日〜7月13日、静岡雙葉中学校・高等学校(静岡市葵区)で高校1年生を対象に5回の授業でおこなわれました。高校で先生のファシリテーションによる実施は今回が初。「未来のリーダー教室 導入編」が全国に広がっていく一歩目となりました。授業の様子をレポートします。

リーダーの多様性を理解する-1日目

「導入編」は、「未来のリーダー教室」のコンセプトを理解し、受講者のみなさんにリーダーシップなどに興味を抱いていただくためのプログラム。「展開編」への入口という位置づけです。今回、静岡雙葉中学校・高等学校で理科を担当する木村剛先生に、総合的な探究の時間で「導入編」を実施していただきました。

1日目、6月9日の授業のテーマは「リーダーシップ」。木村先生はファシリテーターとして、生徒たちに「未来のリーダー教室」のコンセプト「ぐるぐるシンキング」を紹介。「『世の中が〇〇になると思う。だから私はなに〇〇する』というサイクルのなかで、『未来はどうなるか。私はどうするか』と、思考と行動を繰り返していくことが大事」と伝えました。


「ぐるぐるシンキング」を説明する木村剛先生

その後、「リーダーシップ」をテーマとする授業の中身へ。生徒たちは、「この人はリーダー」と思う名前や理由を挙げてから、「リーダーシップ」のマスター講師をつとめる池上重輔先生の動画講義を聴きました。


池上重輔先生の動画講義を聴く生徒たち

生徒たちは紙にメモをとるとともに、タブレット端末上のソフトウェア「C-Learning」に回答や感想を打ちこみ、先生・生徒間で共有していきます。


紙とタブレット端末の併用

木村先生は、「正しいことを正しくやることも大事ですが、この授業では正解を求めてやるわけではありません。みなさんが自分たちなりの解を出していくため必要なのは、考えて動くということ。今日はリーダーシップをテーマに、正解のない時代を進むことの意味をみなさんに考えてもらいました」と伝えました。

生徒の振り返り(一部・抜粋)

「リーダーでもスタイルがたくさんあり、状況によってスタイルを変えて行くことが大事というのが興味深かった」

「授業を通してリーダーがいる大切さを改めて感じました。でもリーダーだけではなくリーダーの後についてくるフォロワーも大切だと思いました」

「私も小学校の時からいわゆるリーダーというものを務めてきたもののうまくいかなかったりして正解が見つからなくて戸惑うことも多かったことを思い出した。正解のないこれからの自分の人生についても改めて考え直してみたいと思った」

技術進歩の先にある未来の状況を考える-2日目

2日目、6月16日のテーマは「未来を見通す」です。木村先生は冒頭、「技術は進歩してゆくものだから、未来の世の中は大きく変わるよ」というこの授業でのキーメッセージを伝えます。

生徒たちは、「未来を見通す」のマスター講師である久村春芳先生の動画講義を聴きます。


動画講義を聴講する生徒たち

木村先生は途中で、生徒たちに「考える時間」を設けます。「金属加工技術者が将来、AIに自動化される確率は何パーセントか。医師は何パーセントか。答えてください」(木村先生)


途中での木村先生と生徒の対話

生徒たちは、機敏な動きをしながらも転んでしまうロボットの動画を見て笑ったり、自分の好きなものの10年後がどうなっているか想像をはたらかせたりしていました。

生徒の振り返り(一部・抜粋)

「未来はわからないけど見据えることはできるし、すぐにきちゃうわけだから、思い立ったら先まで読んで行動すべきだと思いました」

「自動化される/されない仕事が結構あって、今ある仕事は無くなって新しい仕事がどんどんできるんだなと思った」

「AIが発展してきていてこれからの時代がどうなっていくのか心配でもあり楽しみでもあります」

既成概念を壊してみる-3日目

3日目は6月23日。「アート思考」をテーマとする授業でした。木村先生ははじめに「既成概念を疑ってみる」などのこの授業でのポイントをあらかじめ生徒に伝えます。「(アート思考というテーマは)僕にとって解釈がむずかしものでもあります」と、心のうちを生徒たちに明かします。

一方、生徒たちは盛り上がっていました。「アート思考」のマスター講師の一人である栗田絵莉子先生による動画講義で「アートとは既成概念の破壊と再構築」といったメッセージを聴いたうえで、アート作品づくりに挑戦。没頭する生徒もいました。


アート作品づくりの取り組む生徒たち

近くの席の生徒どうし作品を見せ合います。相手の作品に対し、「色付けられたらもっと魅力が高まると思いました」などと感想を伝えます。


鑑賞会をおこなう生徒たち

さらに、おなじくマスター講師の福村彩乃先生による動画講義を生徒たちは聴きます。「アーティストが創造する過程は、世界に新しい価値を生み出していくためにとても重要」といったメッセージを聴き入っていました。


授業後も作品の意図や受けとめ方を話し合う

生徒の振り返り(一部・抜粋)

「既成概念を疑って自分で新しく何かを創造するのはすごく勇気がいると思った。自分の個性をこれから探していきたい」

「周りの絵を見るとそれぞれに書くことが違い、個性が見えました。絵を比較することで自分らしさの自覚と周りの表現を受け入れることができ、新しい表現を学べました」

「やりたいことをやるだけでなく、どう表現するか、人にどうしたら伝わるかを考えることが大切なのだと学ぶことができました」

後日、栗田先生と福村先生から、生徒たちの振り返りに「既成概念と考えると難しいけれど、まずは自分の中にある『先入観』を探してみると良いかもしれませんね」「ぜひ、自分と向き合って個性を知り、個を表現することにチャレンジしてみてください」などのメッセージが寄せられました。

いまない概念を創りだす―4日目

4日目は6月30日。テーマは「SF思考」です。木村先生は冒頭、「あなたも未来をつくる一員だよ」というキーメッセージを伝えました。

生徒たちは、学校についての言葉や、趣味や好きなものの言葉を、思い浮かぶままにたくさん書いていきます。


書いたものを見せ合う生徒たち

そして、「SF思考」のマスター講師である宮本道人先生の動画講義を聴きました。「『考え出さなければいけない』でなく、適当に『こういう未来もくるのでは』と思ってください。すると『これ、もしかしたら自分が追求したらおもしろいかも』といった気持ちになっていくのではないかと思います」といった宮本先生の考えを受けます。

その後、学校についての言葉と趣味や好きなものの言葉を組み合わせて、いままでにない言葉を創っていきます。生徒たちは「未来を創造する」入口を体感している様子でした。


これまでにない概念を創りだす

生徒の振り返り(一部・抜粋)

「SFの内容を考え方や頭の引き出しとして取り入れて未来を見ていくという考え方を聞いて、少し視野が広くなったような気がしました。未来をフィクションとして捉え、想像するというのは今の私にとって気持ちが楽になる言葉でした」

「2つの言葉を組み合わせてこの世に存在しない言葉を作って友達と共有する事で意味にわからない言葉が生まれたりしててとても面白かったです」

「大きな成功を修めているひとはSFについて考えているということなので、未来を考えることは大切だと思いました」

ゲストをまじえ「導入編」を振り返る―5日目

5日目は7月13日。4日目までで「導入編」の内容は完結しましたが、木村先生は授業の都合でできた時間を利用し、全体を振り返る機会を設けました。

まず木村先生が、雙葉学園の卒業生である日産財団スタッフから生徒たちに向けたメッセージを紹介。「(私の場合は、社会人になって)広い世界を見て、自分が自分の人生のリーダーとして、考えて決めたたことをやってみようと思うようになった。それが私にとっての『ぐるぐるシンキング』が回り始めた時」「でも本当は、中高生でもそういうマインドを持つことはできたと思う」と先生が代読しました。

その後、ゲストとして福村彩乃先生が登壇しました。アート思考やキャリアをめぐる対話を深めていきます。


福村彩乃先生

ピアノの経験は福村先生にとってどのようなものだったかという生徒の質問に、福村先生はこう答えます。

「小さいころから音楽をやる家庭で、ピアノをあたりまえにやっていました。大きくなるにつれて、自分はなにをやりたいか、社会のなかで自分がどういう立ち位置にいて、どう行動していけば社会になにかのきっかけをあたえられるか考えるようようになりました。そのなかでガラスの仕事を選択しました。ピアノもいまになれば好きなことのひとつ。ピアノがなければいまの私はありません。まわり道をしたからこそ自分にできることがかならずあります。人生のいろいろな経験を組み合わせることで、自分にしかないオリジナルのものができてきます」


福村先生と生徒たちとの対話

もう一人のゲストとして、2023年1月と3月に「導入編」のファシリテーターをつとめた伊藤賀一先生も登壇しました。


伊藤賀一先生

伊藤先生は、社会科講師、著述業、リングアナウンサーなどの多彩な職業の持ち主。職業観を生徒たちに伝えました。

「やろうと思ったものはなんでも能動的にやってきました。それで木村先生と出会い、みなさんとも知り合いになれました。人にはちがうところがありあますが、やりたいことのつながりが一個でもあれば仲良くなれます。命のつぎに大事なのは時間で、そのつぎがお金と思っています。仕事では、相手にする人の時間やお金を無駄にしないようにと意識しています」


伊藤先生の話を聞く生徒たち

その後、木村先生が、各授業で生徒たちが重要だと思った言葉の数々をとりあげて振り返りました。


これまでの授業の振り返り

最後に日産財団常務理事の原田宏昭が生徒たちにあいさつ。「この教室をきっかけに、社会を広く見てみよう、自分を振り返ってみよう、既成概念を壊してみよう、掛け算で未来を描いてみようといったことをぐるぐる考えながら、みなさんに育っていただきたいと思っています」と伝えました。


生徒にあいさつする原田宏昭

授業後、木村先生に「未来のリーダー教室 導入編」のファシリテーターをつとめての感想を聞きました。


感想を話す木村先生

「学校では原理を求める還元主義的な授業が多いなか、それと異なる考え方の授業を差し込む機会を探していました。『未来のリーダー教室』は、自分のベクトルに合っていてファシリテートしやすく、生徒たちもノレるものでやりやすかった。女性の活躍が日本に必要と思っており、このような取り組みが本校の生徒たちに必要と考えています。リーダーになりたい子ばかりでなく、興味ない子もいますが、そういう子にも『そうなんだ』と気づきをもてる内容でした」

木村先生、生徒のみなさん、ありがとうございました。

私たち日産財団は「未来のリーダー教室」で今後、マスター講師が受講者に直接対話する「展開編」も実施していきます。「未来のリーダー教室」へのご参加・ご協力をぜひよろしくお願いします。