2024年8月「未来のリーダー教室」展開編を東京で開催しました
日産財団は2024年8月2日(金)と9日(金)「未来のリーダー教室」展開編を早稲田大学(東京都新宿区)とコモレ四谷タワーコンファレンス(同)で開催しました。計19人の受講者が2日間にわたり、「リーダーシップ」「アート思考」「システム思考」「SF思考」をテーマとする、学校で学ばない独自の講義に臨みました。今回は、受講者と講師の“対話”によって議論や思考が深まったシーンのようすを中心にお伝えします。
リーダーシップのスタイルから「信頼」について話しあう」
受講者と講師たちの直接対話が「展開編」の魅力のひとつです。受講者は、講師の話を聞いているなかで率直に感じたことを、講師やほかの受講者たちに投げかけていきます。
Day1午前のセッション「リーダーシップ」では、マスター講師の池上重輔先生から、複数のリーダーシップのスタイルの紹介があり、「自分がリーダーだったらどの種類がよさそうか」「リーダーをフォローするとしたら」と問いかけがありました。
その後の受講者たちと池上先生のやりとりです。
女子受講者「初対面の人に、強圧型のリーダーシップをされても、ついてきたいとは思えないかな……」
池上先生「なるほど! これは大事な指摘です。では、そう感じるのはなんでだと思いますか」
男子受講者「初対面だと、本当にこの人はわれわれのためにやっているのだろうかって。敵意とかを感じるのかな……」
池上先生「たしかに。あまりよく知らない人には、そうした心配が起きますよね。なにかがないからです……。僕らがよく言うのは、信頼です。信じられない相手には共感しづらい。リーダーシップの理論では、信頼は大事な概念ではないかと重視されています」
自分の思いを話す受講者と、それに応じる池上重輔先生
その後、池上先生から、サーバント・リーダーシップやヒューマニスティック・リーダーシップといったリーダーシップのあり方が示され、受講者たちは関心をもって聞いていました。
制作に挑んだアート作品に対し、講師から率直な助言を受ける
午後の「アート思考」のセッションでは、マスター講師の一人の栗田絵莉子先生から、「アートとは社会を巻き込む活動。世の中とリンクしていることを意識して」というメッセージを伝えられた上で、受講生たちがチームで「境界」をテーマとした作品づくりに挑みました。
受講者たちによる作品発表と、栗田先生による講評では、つぎのようなやりとりがありました。
受講者たち「『孤独』という作品をつくりました。親から言われたことをやってきたけれど、齢が上がるにつれ、自分でやる力をなくし、友だちからも信頼をなくし、独りになってしまった人を表しています」「境界は、いじめられる側の本人と、いじめる側の他人たちの境です」
栗田先生「孤独というものを表現できていると思いますが、いま言葉で説明してくれたような親との関係や、友だちとの関係まで、作品を見るだけでは考えが及ばないと思います。もう一工夫あると伝わりやすかったですね。人と人の間にあるところを境界として表現した点はおもしろかったと思います」
自分たちがつくった作品に対し、どのような感想をもたれるか。それぞれのチームの受講生たちが、真剣に栗田先生のお話を聞いているようすです。
受講者たちによる作品発表を聞く栗田絵莉子先生
もう一人のマスター講師である福村彩乃先生からは、「見えないものに立ち向かっていくのに、みなさんが今日やったことはすごく大事なことになります。自分たちで話し合って、やり方を設定して、形にして、他者からの評価を受け、再検討することを繰り返すことが、未来のリーダーに必要だと思っています」といった声がけがありました。
受講者に声がけをする福村彩乃先生
アイデアをイノベーションへ 具現化の大切さを講師から聞く
Day2午前は「システム思考」のセッション。マスター講師の久村春芳先生から、システム思考の要素について説明があったあと、日産財団・常務理事の坂元宏規の進行のもと、受講生たちがそれらの要素のうち「ツリー」と「マトリクス」を使って「未来の医療サービス」を考えるワークにのぞみます。「認知症対策に向けた擬脳」「口内器具でのイヌの健康管理」「けが・病気・老化に強いDNAを入れた健康食」「オンラインとドローンによる迅速な薬のお届け」といった案を出しました。
感想を話す受講者とコメントを伝える久村先生
発表後、受講者の感想と久村先生のコメントのやりとりがありました。
受講者「システム思考で技術の革新について学び、未来にありうる医療技術を考えたことで、問題をどう解決していくか考えることができました。これから生かしていけそうだと思いました」
久村先生「素晴らしい答えです。私もそう思います。今後は、みなさんの出したアイデアについて、いまどうしてできていないかをブレークダウンして考え、できるよう具現化していくことが大事です。現実で役立つものにするのがイノベーションです。今後さらに経験を積んでいけば、みなさんもそれができるようになると思います」
ワークにのぞむ受講者たち。日産財団常務理事の坂元宏規(右端)の進行
このセッションでは、ゲスト講師としてお招きした東京医科歯科大学特任助教の岡本圭祐先生にも「医療、創薬におけるイノベーション〜小児科医におけるぐるぐるシンキング」という題で講演をいただきました。
ゲスト講師として講演する岡本圭祐先生
過去から見通せる未来「デニム」を事例に
最後のセッションは「SF思考」です。受講者たちは、マスター講師の宮本道人先生から、「昔だったらできていなかったこと」を問われます。受講者たちと宮本先生のあいだで、つぎのような対話がありました。
男子受講者「プロジェクターを使ってスライドで発表することも昔はむずかしかったと思います」
男子受講者「ペットボトルです。昔は瓶でコーラを飲んでいるのを見たことがあります」
女子受講者「こうした講義そのものがなかったかな。中高生向けの講義というトレンドがあるから、私たちが学べるようになったのだと思います」
宮本先生「おもしろいですね。教育などで考え方が変わってきたというのはたしかにあります。私の話をすると、先日、講義をする予定の大学からデニム禁止と連絡がきました。気になったのでデニムの歴史を調べると、老若男女が自由に着られるデニムは、反戦運動や差別撤廃運動などのシンボルにもなっていったんです。なにげなく履いているデニムジーンズにも未来を切り拓く歴史がある。過去を見ると、未来に向けていまないものはなにかを思考できます。過去と未来を見通す目をもってほしいと思います」
その後、受講者たちは「SF思考」を体験できるワークにのぞみ、普段とは異なる思考のしかたに、新鮮さを感じているようでした。
宮本道人先生と受講者たちのやりとり
「ぐるぐるシンキング」を深める対話の機会がたくさん
受講者たちは、Day1の懇親会や、Day2の修了証授与・記念撮影などを通じ、さらに講師との対話や、受講者どうしでの交流を深めていました。
Day2終了後の集合写真
「未来のリーダー教室」展開編では、受講者が率直に考えていることや聞きたいことを講師のみなさんに投げかけて、みんなで議論を深める場面がたくさんあります。
こうした対話や議論を通じて、受講者ひとりひとりのなかで、「世の中こうなる」と「だから/でも私はこうする」をくり返す「ぐるぐるシンキング」が深まり、それが「未来のリーダー」への大きな足がかりになるものと私たちは考えています。
これからも、たくさんの方が「未来のリーダー教室」で対話や議論をしてくださることを期待しています。