学校あげて教科等横断型の学びを実現、公立学校への波及も見据える―「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第39回)福島大学附属中学校


学習内容を発表する福島大学附属中学校の生徒。理科教育賞「大賞」表彰式にて。

生徒たちの問題解決力を育成する活動に学校ぐるみで取り組み、成果を出しているモデル的実践があります。福島大学附属中学校は、日産財団理科教育助成を活用した2023年度の研究「県内外公立学校への波及を見据えた『STEAM教育』の先進的実践による成果と課題の分析」で、地域に関わる探究をはじめとする活動に学校をあげて意欲的に取り組んでいる点などを評価され、第13回理科教育賞の大賞を受賞しました。副校長の遠藤博晃先生、教頭の甚野隆洋先生、関本慶太先生、佐藤裕輔先生のお話から、教科の枠を超え、また先生と生徒が一体となり、学校内外にはたらきかける活動であることが伺えます。

大学附属の学校として研究・教育の成果を広める

――福島大学附属中学校についてご紹介いただけますか。

遠藤博晃副校長先生(以下、敬称略) 当校は1947年、福島師範学校附属中学校として創設され、福島大学教育学部附属中学校への改称を経て、2005年に国立大学法人福島大学附属中学校となりました。2024年度の生徒数は418名です。大学附属の学校として、大学における中期目標や計画のもとに実践的な研究・教育活動をおこない、その成果を公立学校に活用していただくことが大きな使命のひとつです。


遠藤博晃副校長。福島県義務教育課指導主事・管理主事、福島県内の公立中学校教頭などを経て、現職。

研究に向け研究協議会を開催、立てた計画を全校に展開

――今回お取り組みの研究「県内外公立学校への波及を見据えた『STEAM教育』の先進的実践による成果と課題の分析」について伺います。目的と概要は、どういったものでしたか。

関本慶太先生(以下、敬称略) 最適解を導き出すなどの問題解決力を身に付けた生徒を育成すること、そして、その成果などを積極的に発信し、公立学校へ波及させること。この二つを目的としました。

 概要については、全学年で理科を中核としたSTEAM教育を推進し、主に8つの学習テーマを設けて、 25時間分の実践事例をつくりました。


関本慶太先生。教科の担当は理科。2022年より研究主任をつとめる。

――研究の前年度から研究協議会を開くなどして準備してこられたと聞きます。

関本 理科教育助成を受けることが決まると、2022年12月に研究主任の私と、副主任の佐藤裕輔先生、それに各教科主任の研究委員からなる研究協議会を開きました。理科を中心としたSTEAM教育でどのようなことができそうかを各先生に発表してもらい、考えを共有したのです。そして、そこから立てた計画をもとに、学校の全教員で共有していきました。

 2024年4月には、新年度の教職員とのあいだで研究に関する共通理解をはかりました。そして、通年で毎週1回、全教科で教科部会を時間割内に組みこんで実施し、共有のスプレッドシートに実践内容を記録するとともに、おなじく毎月1回、研究委員会を実施し、進捗状況を確認してきました。

「地域に関わる探究」を年度・教科を超えて実践

――研究の実践内容について具体的に伺います。複数の柱を設定したなか、「地域に関わる探究」という柱を掲げて実践的に研究されたと聞きます。

関本 はい。「地域に関わる探究」では、中学1年生が、地域課題と地域の魅力について、化学と地学の分野で学習しました。

 ごみ排出量が全国ワースト2位という福島県の課題を題材に、理科では物質の性質を理解してごみを分別し、リサイクルにつなげることをテーマに授業を展開しました。生徒たちは小学生時代から、ごみを題材にした学習をしています。当校でも2021年度に理科と総合的な学習の時間で、福島市のごみ減量推進課の担当者に来校いただき授業をしましたし、2022年度は、ごみの排出量の分析に数学科と理科のタイアップの授業で取り組んできました。

甚野隆洋教頭先生 数学科では、生徒たちと話して、身近なごみ問題の解決に向けて分析をすることとしました。福島市にご提供いただいた市内のごみ焼却場での実データをもとに、可燃ごみや資源量などの割合を経年比較し、分析しました。


甚野隆洋教頭。教頭就任以前より教諭として数学科の授業を担当。専門は数学教育。

佐藤裕輔先生(以下、敬称略) 数学科での分析で「これだけのごみの量を減らさなければならない」と課題がクリアになったので、それを受けて理科で、ごみの分別やリサイクルに関わる物質の性質の理解を進めることができました。


佐藤裕輔先生。教科の担当は理科。研究副主任をつとめる。

関本 研究当該年度の2023年度は、前年度の数学科でのデータ分析結果を引き継いだ1年生たちが、物質の性質を理解してごみを分別し、リサイクルにつなげることをテーマに学習しました。家庭科や社会科と横断的に実践し、授業のまとめとして、総合的な学習の時間で福島市のごみ減量推進課の職員を迎え、これまでの学びを生かした施策の提言をすることができました。


研究の内容―地域に関わる探究。(画像提供:福島大学附属中学校)

関本 「地域に関わる探究」の柱では、もうひとつ、防災教育についても地域企業の協力を得て実施しました。

 福島市における身近な災害は噴火と水害です。噴火に対する防災では、3Dプリンタで立体的な地形図をつくり、噴火のモデル実験をしました。影響の広がり方が、市のハザードマップと一致し、生徒も先生も驚きました。

 また、生徒の発案で、災害に強い地域のまちづくりについて総合的な学習の時間で学習することになり、福島日産の社員の方々をお招きし、「災害に強いまちづくりのビジョン」と「災害時の電気自動車の活用」についての講義や校庭での実践演習をしていただきました。

「プログラミングを活用した探究」を技術科と理科の連携で

――「プログラミングを活用した探究」も研究の柱にして、実践されたと聞きます。

佐藤 はい。たとえば、2年生はセンサースイッチを作成して並列回路を作り、電気制御の節電効果を数量的に求めました。福島県も取り組みを宣言している「ゼロカーボン」に向け、理科の視点でできることはないかという考えが学習のスタートでした。生徒たちは節電と節水に着目し、電気の消し忘れをなくす手だてを、1年生のとき習ったプログラミングで実現できないかと取り組みました。マイクロビットでスイッチセンサを用意し、回路を組んでいきました。


研究の内容―プログラミングを活用した探究。(画像提供:福島大学附属中学校)

関本 マイクロビットの活用については、技術科の先生の支援が大きかったですね。技術科の先生が理科室を訪れて、プログラミングの授業をおこなってくれました。生徒にとっても、技術科と理科の先生がいっしょに授業に臨む姿を見て、それぞれの分野には他の分野とのつながりがあることを身をもって感じられたものと思います。

「中庭を活用した生物・地学の探究」を1年生・3年生合同で

――また、「中庭を活用した生物・地学の探究」という柱でも、授業を展開されたそうですね。

関本 はい。中庭にはソーラーパネルを完備したビニールハウスを設置し、屋上に雨水ダムも造りました。また、専門家のご指導のもと、植物を移植して、生物多様性を目指したビオトープ空間をつくりました。


研究の内容―中庭を活用した生物・地学の探究。(画像提供:福島大学附属中学校)

佐藤 これは3年生の事例ですが、生徒たちは、ビオトープに鳥が集まったり、トンボが卵を産んだりするのを観察することを目標としました。そこで、「中庭の生態系をどうすれば目標に近づけるか」という課題意識をもって、理科と総合的な学習の時間の授業に横断的に臨みました。ビオトープ内の生態系がどうなっているか調べる必要があるため、福島大学の専門家の先生にご来校いただき、生態調査のしかたを教えてもらいながら、目標に向けて取り組んできました。

 さらに、3年生のこの学びを、1年生の「生物図鑑づくり」にも活用してもらうことになり、1年生・3年生でビオトープの生物の合同調査を季節ごとにおこないました。

関本 ビオトープづくりでは美術科の先生の協力も仰いでいます。生徒たちがビオトープのデザインを決めるためのコンテストを担当してくださいました。今年度は、巣箱づくりコンテストを実施することとなり、生徒たちの巣箱の着色やカッティングなどの作業を美術室で指導してくださっています。

生徒自らが他校の先生・教育関係者に学んだことを発表

――生徒の課題解決力を養う実践の成果を、公立学校へ波及させることも研究の目標と言われていましたね。こちらの実施内容はいかがですか。

関本 理科教員で県内の全中学校へ案内し、計6回の授業公開をおこないました。他教科の授業公開のときも本校のSTEAM教育を紹介する時間を設けるなど、学校全体で取り組んでいます。

 さらに、学校全体で10月30日・11月1日に開催した学習指導法研究会に訪れた約330名の教育関係者に、代表生徒27名と担当教員がSTEAM教育の実践紹介をおこないました。生徒たちから、「学んだことを発表したい」といった声があがります。対外的な活動となるため、校長・副校長・教頭からの承認を得たうえで、発信する数々の場を設けてきました。

遠藤 発表内容もさることながら、生徒たちの意欲の強さを感じました。発表をする場をつくることも大事だと考え、積極的に推進しているところです。


STEAM教育に関わる生徒発案の企画。(画像提供:福島大学附属中学校)

校外への成果の波及をより確かなものに

――取り組みの成果についてお聞きします。どのような成果が出ていますでしょうか。

関本 選択・記述のアンケートや理科の授業後の振り返りのテキスト分析などから、1年間の変化として、STEAM教育に関わるアンケート項目のすべてで肯定的な意見が増加しており、校内目的である「問題解決力を身に付けた生徒の育成」を達成する結果が得られたと見ています。

 これらの分析の他、学力テストにおける全学年全教科の1年間の偏差値の変容を分析したところ、全教科のなかで理科の偏差値がどの学年でも最も上昇していることがわかりました。

遠藤 授業を参観しての印象ですが、生徒は自分たちで学習を進めていくという意識がかなりついてきたと見ています。

 また、先生たちにとっての成果としては、自分の担当教科としてやっていることが、他の教科とつながっていることを授業の連携などから実感し、教える内容を深めているのではないかと感じられます。当校では、それぞれの先生が個人の研究テーマをもって授業に臨んでいますが、STEAM教育の実践があることで、それらの研究につながりや広がりをもてる構造になっているのではないかと思われます。

――今回の大賞受賞となった2023年度の研究につづき、2024年度も理科教育助成を活用し、「問題解決力の育成を目指したSTEAM教育の実践と公立学校への発信による波及効果の分析」という研究に取り組まれています。どう進めておられますか。

関本 2023年度の学習指導法研究会にこられた約330名のうち、開催前後を含む3回のアンケートすべてにご回答いただいた方々を対象に分析調査をしており、2024年度も同様の調査をおこないます。「STEAM教育などの教科等横断的な学習に興味・関心が高まったか」「実践はしたか」などの観点から昨年度と今年度を比較することで、私どもの発信による波及効果があったかを分析しようとしています。

 すこしずつ波及効果が出ていると実感しているので、引き続き公立学校への波及をめざすとともに、理科教育の発展に努めていければと思います。