第13回理科教育賞・第7回リカジョ育成賞贈呈式 レポート
公益財団法人日産財団は2024年7月26日(金)「第13回理科教育賞・第7回リカジョ育成賞贈呈式」を、横浜ベイホテル東急で実施しました。両賞とも、受賞各校・団体による成果発表と選考委員による選考を経て、理科教育賞の大賞を福島大学附属中学校に、リカジョ育成賞グランプリを公立大学法人滋賀県立大学に贈りました。
理科教育賞は第13回、リカジョ育成賞は第7回
贈呈式の冒頭、日産財団理事長の久村春芳があいさつしました。「(理科教育賞の対象となる理科教育助成の対象を)2022年度より全国の小中学校に拡大し、レベルアップしました。レベルの高い理科教育実践を共有できることを嬉しく思っています。日本では、モノづくりをベースに国の力を上げる必要と、そのために理科系の人材にがんばっていただく必要があります。今回、どの候補の方が賞をとるか楽しみにしています。参加してくださったみなさまの活動に敬意を表します」と述べました。
日産財団理事長の久村春芳
つづいて、理科教育賞ならびにリカジョ育成賞の選考委員の紹介をしました。両賞の成果発表会では、選考委員が発表者に質問し、取り組みの理解を深めました。
選考委員。左上が選考委員長・長谷部伸治氏(京都大学名誉教授)。その右から時計回りに、委員の藤森義孝氏(福岡教育大学教授)、小野瀬倫也氏(国士舘大学教授)、久保田善彦氏(玉川大学教授)、稲田結美氏(日本体育大学教授)、岡田努氏(福島大学教授)、甲斐初美氏(福岡教育大学准教授)
理科教育賞、各校の充実した成果を発表
理科教育賞の成果発表です。「日産財団理科教育助成」2023年度の対象50校から選出された大賞候補4校が登壇しました。
福島県福島市立松陵中学校は、「災害から主体的に身を守ることができる資質能力の育成」の取り組みの成果を報告しました。模型による火山・土石流などのしくみの確認や、災害をテーマにした施設での見学や受講、実践的な避難訓練の拡充などを、理科教育との関わりのなかで実践。生徒たちの地震・火山・原発事故の各災害に対する知識や行動力が高まったことを伝えました。
福島市立松陵中学校の早乙女まゆみ先生と阿部洋己校長
神奈川県愛川町立半原小学校は、「『未来型授業(SDGs × STEAM × GIGA × PBL)』で未来社会を切り拓く力を育む」という取り組みの成果を発表。全校学習テーマ「半原のよさ みんなにとどけ!」を掲げ、Confidence・Communication・Collaboration・Critical thinking・Creative thinking・Challenge spiritの「6Cの力」を育むため、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)、STEAM(Science・Technology・Engineering・Art・Mathematics)、GIGA(Global and Innovation Gateway for All)、課題解決型学習(PBL:Project Based Learning)の相乗効果をはかる「未来型授業」の実践内容を紹介。Confidenceが伸びた点と、未来社会に向け学びつづけた意義を強調しました。
愛川町立半原小学校の佐野昌美前校長と中山竜巳先生
福島大学附属中学校は、「県外公立学校への波及を見据えた『STEAM教育』の先進的実践による成果と課題の分析」という取り組みの成果を発表しました。福島の地域課題と地域の誇りの科学的探究や、節電システムのモデルづくりなどのSTEAM教育を実践。成果として、生徒へのアンケート結果からSTEAM関連の全10項目で肯定的な回答を得られ、また、問題解決力も身につけられたことを成果にあげました。また、本実践の他校への波及効果についても紹介しました。
福島大学附属中学校の関本慶太先生と甚野隆洋教頭
三重大学教育学部附属小学校は、「ドローンとプログラミング教材を活用した河川防災学習の実践と効果の検証」という取り組みの成果を発表しました。河川流域をドローンで撮ってデータベース化し、データを活用して児童たちの理科の学びから治水に目を向けさせた取り組みを報告。また、雲出川流域の住民への聞き取りなどのアナログ手法も重視して実施したといいます。取り組みの成果として、全体状況を把握して警戒レベルを理解するようになった児童などの事例などを挙げました。
三重大学教育学部附属小学校の前田昌志先生と山本嘉校長
リカジョ育成賞、個性的な取り組みと成果を発表
つづいて、第7回リカジョ育成賞の取り組み成果の発表です。同賞に、2023年6月1日から2024年1月9日までの公募期間中30件の申請がありました。2024年5月の選考委員会により選定されたグランプリ候補3組が登壇しました。
一般社団法人土木技術者女性の会は、「リカジョPR大作戦 〜おもしろさ発見! 女性技術者による土木のススメ〜」という取り組みの成果を発表。建設業での女性就労者のすくなさの課題意識から、「気づく」「興味・関心」「選択肢の一つに」「リカジョが活躍」の4本の柱をもって、小中学生や高校生の女子、さらに保護者を意識して各種“作戦”を敢行していることを紹介。取り組み成果として関心・興味や理解度の高まりが見られていることを報告しました。
土木技術者女性の会の村上育子氏と牛山育子氏
大妻嵐山中学校・高等学校の鈴木崇広氏が報告したのは「チャレンジ化学! 生徒実験の充実を基にした生徒の自主的な課題研究への発展」の取り組みです。女子校である同校の全生徒向けに「市民としてのリテラシー向上のための化学教育」を実施し、授業の3分の1を実験・グループ活動に充てたことを報告。亜鉛めっきと黄銅めっきを教材にした「錬金術師の夢の改良」などの研究事例を紹介しました。希望者向けの「スペシャリスト育成のための化学教育」についても伝えました。
大妻嵐山中学校・高等学校の鈴木崇広氏
公立大学法人滋賀県立大学は、「集まれ! 未来で輝くクリエイター⁺系女子 in 滋賀 〜女子中高生の理系進路選択支援の取組〜」という取り組みの成果を報告しました。滋賀の未来を切り拓いてくれる女性を輩出すべく、理科への興味・関心度合から三つの対象レベル分けをし、それぞれ「理系的思考体験」「職場交流体験」「キャリアスキル体験」を提供したことなどを紹介。成果として、全参加者たちから肯定的なアンケート回答を得られ、進路に対する意識に変化をもたらせたことを強調しました。
滋賀県立大学の田邉裕貴氏と高谷美穂氏
「理科教育賞」「リカジョ育成賞」各賞を発表
選考委員による選考を待つあいだ、会場では発表を終えた各校・団体の方々がほっとした表情で談笑し、結果発表のときを待ちました。
いよいよ各賞の発表です。
「第13回理科教育賞」について、長谷部委員長がポスターセッション賞を含む各賞をつぎのとおり発表しました。各受賞者に対して、会場から大きな拍手が起きました。
理科教育賞大賞
・福島大学附属中学校
「県内外公立学校への波及を見据えた『STEAM教育』の先進的実践による成果と課題の分析」
理科教育賞
・福島県福島市立松陵中学校
「災害から主体的に身を守ることができる資質能力の育成」
・神奈川県愛川町立半原小学校
「『未来型授業(SDGs×STEAM×GIGA×PBL)』で未来社会を切り拓く力を育む」
・三重大学教育学部附属小学校
「ドローンとプログラミング教材を活用した河川防災学習の実践と効果の検証」
ポスターセッション賞
・宇都宮大学共同教育学部附属小学校
「STEM/STEAM教育を指向した問題解決能力の育成を目指す理科授業」
「第13回理科教育賞」大賞・理科教育賞・ポスターセッション賞受賞者と選考委員・日産財団理事による記念撮影
「第7回リカジョ育成賞」について、長谷部選考委員長が下記のとおり、各賞の結果を発表しました。おなじく各受賞者に大きな拍手が贈られました。
リカジョ育成賞 グランプリ
・公立大学法人滋賀県立大学
「集まれ! 未来で輝くクリエイター⁺系女子 in 滋賀 〜女子中高生の理系進路選択支援の取組〜」
リカジョ育成賞 準グランプリ
・一般社団法人土木技術者女性の会
「リカジョPR大作戦 〜おもしろさ発見! 女性技術者による土木のススメ〜」
・大妻嵐山中学校・高等学校 鈴木崇広氏
「科学技術の開発や科学理論の発見過程から創造的な思考力の育成を目指す理科学習」
「第7回リカジョ育成賞」では「奨励賞」12件も選出しています。
リカジョ育成賞 奨励賞
・網走市立第一中学校 主幹教諭 佐藤大志
「普通の中学校でできるリカジョ育成プラン 〜あこがれがリカジョを育てる〜」
・鹿児島大学理学部 小山桂一
「育て理数好き女子!小中高校生未来博士プロジェクト2023」
・京都光華女子大学
「リケジョ育成のためのプログラミング教育と実験的学び 〜環境と防災をテーマとして〜」
・Cooking Park
「おやつでサイエンス 〜女子の心をくすぐるおいしい科学教室〜」
・国立大学法人秋田大学 男女共同参画推進室
「興味をキャリアへ 続・あきた理系プロジェクト」
・国立大学法人岩手大学理工学部 工学GIRLS
「科学の未来を明るく!子どもたちにサイエンスの楽しさ、学ぶ喜びを!」
・国立大学法人 熊本大学
「はばたけ!熊本サイエンスガールズ(Girls, Enjoy Science!)」
・沼津商業高等学校 大川翔平
「理科好き女子を増やすためのPBLの開発 〜高等学校における授業実践『スイーツの科学』〜」
・第一薬科大学 藤井由希子
「未来の女性研究者の育成を目指して:研究者による研究アウトリーチ活動」
・特定非営利活動法人みんなのコード 講師・研究開発担当 千石一朗
「情報教育をインクルーシブに 〜女子中学校と取り組む、教科横断的な情報活用能力の育成〜」
・奈良女子大学 STEAM・融合教育開発機構(RISE)
「理系の女子生徒が中心の研究発表交流会 奈良女子大学サイエンスコロキウム」
・株式会社長谷工コーポレーション
「マンションの最新技術・マンション設計の最前線を体感しよう!」
「第7回リカジョ育成賞」グランプリ・準グランプリ受賞者と選考委員・日産財団理事による記念撮影
「全教員で実践」「賞が大きな励みに」受賞コメント
「理科教育賞」大賞を受賞した福島大学附属中学校より、甚野隆洋教頭に受賞に際してのコメントをいただきました。
このたび、理科教育大賞をという名誉ある賞をいただき、たいへん光栄に存じます。本校では「県内外公立学校への波及を見据えた『STEAM教育』の先進的実践による成果と課題の分析」をテーマに、理科教育を中核として教科等横断的に探究していくSTEAM教育を実践してきました。
文部科学省から「授業時数特例校制度」の指定を受け、理科と総合的な学習の時間の授業時数を増加させております。その制度を生かし、生徒が主体的に探究できるよう、研究主任を中心に教科部会・研究委員会で議論を重ね、STEAM教育の視点を入れたカリキュラム・マネジメントを充実させました。そのため、全教員で共通理解のもと実践を行い、8つのテーマ、25時間分の授業事例を創り上げました。
また、全国的にも先進的な実践・汎用性の高い実践の他に、福島県教育委員会が策定する「福島ならでは」の教育も意識することで、地域を題材とした授業実践や単元構想を創り、県内公立学校へ波及させています。
2024年度も学校公開や通年で開催する授業公開、各種研修会で本校の実践を発信する機会を設け、県内外に実践を波及させていきたいと思います。
最後に、本校研究実践を進めるにあたり、多大なるご支援賜りました日産財団のみなさまに、厚く御礼申し上げます。
甚野隆洋教頭
「リカジョ育成賞」グランプリを受賞した滋賀県立大学より、工学部教授理系進路選択支援プログラム実行委員会副委員長の田邉裕貴氏に、受賞に際してのコメントをいただきました。
この度は、第7回リカジョ育成賞グランプリを賜り、誠にありがとうございます。日産財団および選考委員の皆様に心より感謝申し上げます。
本学では、理系の力で滋賀の未来を切り拓く「クリエイター⁺系女子」を輩出するため、女子中高生の理系進路選択支援拠点となるべく2020年度から活動を継続して実施しており、自治体、民間機関、地域などと多様な連携をおこなってきました。
グランプリでは、理系に関する興味や知識がない層から、すでに理系進路を選択した層にまで、レベル別に設定したイベントを実施していることや、企業などの技術職の女性、本学理系女子大学生との交流などキャリアパスを示していること、保護者や教員向けプログラムを実施していることなどについて高く評価いただきました。
本活動は5年目に入りました。いまだに試行錯誤しながら進めている部分もあるなかで、このような素晴らしい賞をいただけたことは大きな励みになりました。今後は、さらに対象を拡大しつつ、学内で一丸となって理系人材育成に尽力したいと考えています。
最後になりましたが、本学の取り組みを支え、ともに歩んでくださった協力機関のみなさま、参加者および学内関係者に改めて深く感謝申し上げます。
田邉裕貴氏
各学校・団体のみなさま、ご受賞おめでとうございます。また、理科教育助成・リカジョ育成賞にご応募・ご協力いただいたすべてのみなさまにお礼を申しあげます。