理系のおもしろさを伝える活動で、興味のきっかけをあたえ、自分たちも成長する――高知工業高等専門学校
第6回リカジョ育成賞 グランプリ
「リケジョの⼒で⾼知を元気に!! 〜TGK の取り組み〜」
インタビュー:高知工業高等専門学校 澤田朱夏さん 多田佳織さん(サポート教員)
(実施日:2023年10月23日)
科学や工学のおもしろさを伝える活動で、科学や工学に興味をもつ女子を増やすとともに、自分たちも成長を遂げていく。そうした好循環を工業高等専門学校(高専)がつくっています。高知工業高等専門学校では、女子生徒からなる女子会組織TGK(Techno – Girls of Kochikosen)が、学校内外でのイベントを自分たちの発想やセンスで企画し、地元の女子小中学生に、科学や工学への興味を抱くきっかけをあたえつづけています。高知高専TGKは「リケジョの力で高知を元気に!! 〜TGK の取り組み〜」をテーマ名とするこの取り組みで、第6回リカジョ育成賞のグランプリに輝きました。
このたび、TGKのメンバーの一人で本科3年(受賞当時)の澤田朱夏さんと、サポート教員である多田佳織さんに、TGKの取り組みについて話を聞くことができました。澤田さんからは、興味のきっかけをあたえることを大切にしていることが、また多田さんからはサポート教員として学生たちを見守る姿勢に徹していることが伝わってきました。
「科学のおもしろさを知って理系の道へ進んでもらいたい」
――高知工業専門学校TGKについてご紹介いただけますか。
澤田朱夏さん(以下、敬称略)
2015(平成27)年に、増加傾向にあった女子学生が活動するのをサポートする女子会組織としてTGK(Techno-Girls of Kochikosen)が立ち上がりました。いま、約40人の登録者がいます。ひとりでも多くの女子生徒に科学のおもしろさを知って理系女子の道へ進んでもらいたいと、活動しています。
多田佳織さん(以下、敬称略) 当校では以前より女子学生総会があり、また女子学生比率の多い環境都市デザイン工学科に女子学生・OGのコミュニケーション活動組織がありました。他学科でも、おなじように活動したいという女子学生が増えるなか、全学的な組織としてTGKが発足したという経緯があります。
(右)澤田朱夏さん。高知工業高等専門学校ソーシャルデザイン工学科ロボティクスコース3年生(受賞当時)。部活動でロボット研究部と宇宙科学研究部に所属。子どもたちの可能性を開花させるサードプレイスを開くことが夢。(左)多田佳織さん。高知工業高等専門学校ソーシャルデザイン工学科准教授。徳島大学大学院工学研究科生物工学専攻修了。2015(平成27)年度、高知工業専門学校講師。2017(平成29)年度より現職。授業では本科1、2年生の化学科目と生物科目を担当。
――澤田さんが高知高専へ、そしてTGKへ入った経緯はどういったものでしたか。
澤田 中学生のとき、学校見学で高知高専を訪れ、ロボット研究部の部室を見学しました。回路を作って、目に見えないプログラムを動きのあるものにしている学生たちの姿を見て「こんな世界があるんだ!」と興味をもち、高知高専に進みました。
入学すると、TGKの「お茶会」があり、友だちに誘われて行ってみたのがTGKに入ったきっかけです。先輩や他コースなどさまざまな女子学生と仲よくなれて、楽しくなっていきました。
賑わう場所で子どもたちに科学・工学の体験を提供
――TGKの活動内容についてお聞きします。
TGKの主な活動。(画像提供:高知工業高等専門学校)
澤田 まず、「リケジョ☆ひろば」があります。商業施設のスペースを借りて、家族と買いもので訪れた子たちに、ものづくり体験などをしてもらいます。コロナの影響があり、2023(令和5)年に3年ぶりの開催となりました。
その回では「スライムづくり」の体験などをしてもらいました。企画内容については、お茶会でメンバーが集まったときや、廊下ですれちがったときなどに、「つぎのイベントどうしようか」「あれいいんじゃない」などと会話するなかで決めていきます。
「リケジョ☆ひろば」では、たまたま買いものにきた客が、このイベントを見つけて参加するというパターンが多いと思います。科学や工学に興味なかった子が興味をもつきっかけづくりにもなると思います。
――「科学実験教室」もおこなっているそうですね。
澤田 はい。「科学実験教室」は、実験器具などを使って、参加者により深く科学の分野に踏み込んでもらうイベントです。高知市内の複合施設オーテピアで年2〜3回、各回10〜20人の参加者を招いて開いています。応募して参加する子がメインなので、「科学のこと、ものづくりのことをもっと知りたい」という期待に応えられるイベントだと思います。
最近の回では、第1部でスノードームづくりを女子中学生たち体験してもらいました。試験管を使って、温度変化により結晶がなくなる・またつくられるということを感じてもらい、この体験をスノードームづくりに応用してもらいます。また第2部でハンドクリームづくりを体験してもらいました。
――地域のイベントに参加しているとも聞きます。
澤田 はい。高知市内で毎年7月に開かれる「土曜夜市」に出展するなどしています。通りがかりの人たちにイベントに立ち寄ってもらいます。多くの人たちがやってくる地域イベントのため、私たちもとても忙しくなります。
幼稚園生や小学生から高校生まで幅広い年齢層の人たちに参加してもらえます。いろいろな人たちに興味をもってもらえる機会です。
どう“きっかけ”をあたえられるか考える
――活動で心がけていることはどんなことですか。
澤田 それぞれのイベントでかならず「かわいい」と感じられる要素を入れることにしています。「かわいい」と感じることから、興味をもってもらえることもあるからです。
それに、参加した人たちにできるだけ手を動かしながら、気づきを得てもらうことを大切にしています。そのほうが記憶に残り、その後の科学への興味につながると思うからです。
また、参加者たちから出た質問にかならず答えるようにもしています。その子がもった小さな疑問が解かれることが、その子にとっての科学の興味をもつきっかけになることがあるからです。聞かれた人が答えられなければ、ほかのメンバーに聞いて答えるようにしています。
――先生は学生たちの取り組みぶりをどう見ていますか。
多田 学生たちはイベントを企画するごとに、確実に自分たちで考えて動くための力をつけていると、見守りながら感じています。私たち教員は手を出さず、学生たちが困ったときだけ動くようにしています。
それに、学内で頼りにされていることに、TGKのメンバーがオープンキャンパスなどで訪れた中学生たちからの質問や相談に答える機会が増えています。
澤田 中学生から「高専に行って後悔しないか不安もある」といった相談を聞き、「いまの時点でこれと選んだ道が最善。その後いつでも進路を変えるための行動を起こせるから」といったように答えています。
参加者の選択肢を拡大、メンバー自身はより自主的に
――取り組みの成果についてお聞きします。参加者の女子生徒たちにどのようなよい影響をあたえているといえそうですか。
澤田 興味をもてる分野や、進路として進む分野の「選択肢」を広げてもらえているかなと思っています。多くの子が、将来ケーキ屋さんやユーチューバーになりたいと思うのは、その職業について見たり聞いたりしたから。科学や工学・ものづくりの分野でも、それに関わることに触れる経験があれば、興味をもつきっかけになるし、その子にとっての選択肢の広がりにつながると思っています。
私の先輩たちに当たりますが、かつてイオンモール高知で開催した「リケジョ☆ひろば」に参加し、「自分もTGKの活動に参加したい」と高知高専に入学した人が複数いたりもします。
活動から得られた成果の例。(画像提供:高知工業高等専門学校)
――澤田さんをはじめTGKのメンバー自身は、どう成長できていると感じますか。
澤田 チームのためになろうといった貢献心が強くなったことが一つあると思います。
それに、学生たちがしっかりしなければならないので、自主的に行動できるようになった気もします。自分たちでやってみて失敗しても、その失敗をつぎに活かすという流れができていると思います。
多田 学生たちは、自分たちで企画をしたり、参加者たちと交流したりする力を身につけていると思います。
TGKの活動による好循環。(画像提供:高知工業高等専門学校)
――今後の抱負をお聞きします。
澤田 TGKを「よりよい居場所」にすることが抱負です。活動を継続させていくにはメンバー自身が科学を楽しんだり、つながりを大切にしたりすることが重要だと思うからです。
多田 次世代にTGKを継承していくことがポイントになります。「自分たちもTGKで活動したい」と思ってもらえるような環境づくりや声がけを続けていってほしいと思っています。
――科学などのおもしろさを伝える活動をしている同世代の人たちにメッセージをいただけますか。
澤田 自分たちが活動を楽しむことをいつも軸にしながら、まわりを巻き込んでいくことが大切と思います。また、自分自身としては、まわりによく思われそうだからなにかするというより、本当に自分でしたいことをして、それでまわりの人たちにどうよい影響をあたえるかと考えるようにしています。
●コラム 夢は子どもが才能を伸ばせる“サードプレイス”づくり
グランプリ受賞につながるプレゼンテーションの場となった成果発表会(横浜市内で2023年8月開催、上写真)でも、今回の取材でも、はつらつと自分の言葉で話してくださった澤田さん。取材の最後にいまの夢を語ってもらいました。
「将来は、子どもたちと関われる仕事に就ければと思っています。いまの時代の子はこうであるといった固定概念がありますが、それが大きすぎるとその子の可能性を潰してしまうことにもなる。学校でも家でもない、(固定観念に捉われずににいられる)“サードプレイス”を開きたいというのがいまの自分の大きな夢です。絵をすごく描けるとか、それぞれに才能ある子たちが、好きなことを見つけたり挑んだりできる場をつくれればと思っています」(澤田さん)