さまざまな進路意識レベルの女子中学生に複数のイベントで理工系の魅力を伝える――独立行政法人国立高等専門学校機構 小山工業高等専門学校

第5回日産財団リカジョ育成賞 グランプリ

「サイエンスキャラバンで届けるリケジョライフへの夢」

インタビュー:独立行政法人国立高等専門学校機構 小山工業高等専門学校 柴田美由紀さん・髙屋朋彰さん
(実施日:2022年9月12日)

中学生には、自分の進路を明確に意識する子もいれば、まださほど意識していない子もいます。さまざまな意識レベルにある中学生たちに自分の進路を描いてもらうには、いくつかのレベルを設定することも有効かもしれません。

高等専門学校(以下「高専」)では、中学を卒業した子たちが本科に入学するため、中学生たちに入学志望者になってもらうことが重要となります。学生比率がさほど高くない女子学生に対して、高専での学びの魅力を伝えるための取り組みに力を入れてきたのが、独立行政法人国立高等専門学校機構小山工業高等専門学校です。女子中学生の進路への意識レベルを3つに分けて、それぞれのレベルにあったイベントを開催するなどして、生徒たちの理工系への進学を支援してきました。日産財団は「第5回リカジョ育成賞」で、同校のこれらの取り組みにグランプリを贈っています。

今回、この取り組みに主導的に携わってきた教授の柴田美由紀さんと、准教授の髙屋朋彰さんに詳しいお話を聞くことができました。紙媒体で案内することで家族や学校の先生たちにも興味をもってもらうといった、取り組みの効果を上げるためのポイントを披露していただきました。

「理工系の学びの楽しさや職業の魅力との幸せな出会いを!」

――はじめに、小山工業高等専門学校についてご紹介ください。

柴田美由紀教授(以下、敬称略) 本校は、5年次までの本科と、その上の2年次の専攻科を合わせて1000名強の学生が学ぶ工業高等専門学校です。学科は、機械工学科、電気電子創造工学科、物質工学科、建築学科の4つがあります。「技術者である前に人間であれ」を教育理念とし、「今を見つめ未来を創る技術者」の育成を目指しています。「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」では、2020年度、2021年度と連続優勝し、また2021年度は「ロボコン大賞」を受賞するなどの成績を上げています。

――グランプリの対象となった取り組み「サイエンスキャラバン」をはじめとする、女子中学生・保護者・中学校教諭たちに対するアプローチについて伺います。どのような背景のもと取り組みを始めたのでしょうか。

柴田 学校の課題としては、中学を卒業する生徒みなさんに高専に興味をもってもらい、入学につなげるということがあります。栃木県も他県と同様、15歳人口がへっており、入学者の確保は切実な課題です。とくに、学生の男女比率では女子が低く、逆に伸び代があると考え、女子中学生へのはたらきかけを重視しました。

より視野を広げると、北関東工業地域で女子理系人材が少ないという課題もあります。高専は地域あってこそです。地域の産業振興のため理工系人材を育てることが重要であり、裾野を広げるうえでは、やはり女性人材に伸び代があると考えています。

裾野を広げるのに、ただ座ったまま「高専、おもしろいですよ」と発信しても届かないと感じていました。そこでアウトリーチ活動で、興味・関心のきっかけをお届けしようと考えました。「理工系の学びの楽しさや職業の魅力との幸せな出会いを!」がモットーです。

――対象の女子中学生たちを、「理工系に関心が薄い生徒」「文理選択に迷う生徒」「理工系分野選択に迷う生徒」の3つに分けて、それぞれに対する支援の取り組みを企画されました。

柴田 学内の有志で「理工系キャリアプロジェクト」を立ち上げて、メンバーでさまざまなアイデアを出しあいました。それらを整理していくなかで、アプローチのしかたとして理工系に関心が薄い生徒たちには「訪問型」、文理選択に迷う生徒たちには「招待型」、理工系分野選択に迷う生徒たちには「体験提供型」という3つでいこうということになりました。科学技術振興機構(JST)「女子中高生のための理系進路選択支援プログラム」に応募し2020・2021年度に採択されて本事業を展開することができましたが、幅広い層にアプローチするようにといった課題があったため、これを意識した点もありました。

――女子中学生だけでなく、保護者や中学校の先生にも関心をもってもらうことを意識したそうですね。

柴田 はい。入学生などにアンケートをとると、保護者の意見が進路志望のいちばんの決定打であることがわかりました。また、中学校の先生たちには進路指導のとき高専への進学にも肯定的な気持ちをもっていただけたらと考えました。

(左)髙屋朋彰准教授。授業では生物工学・生物資源工学・生物素材工学論を担当。学生時代から、主に食品微生物を研究。(右)柴田美由紀教授。授業では国語・文学を担当。伝え合う力を育成する独自の教育方法「Sメソッド」を開発し、学生たちの表現力向上につとめる。泉鏡花をはじめとする日本近代文学を研究。

中学校とまちかどで理工系の魅力を伝える――訪問型イベント

――各アプローチの概要と、取り組みのなかで効果的だったと感じられた点を伺います。まず、理工系に関心が薄い生徒たちに対する「訪問型」のアプローチについてはいかがでしょうか。

柴田 中学校を訪れ、理工系の学びと職業の魅力を伝える「サイエンスキャラバン@スクール」を、対面とオンラインの両形式でおこないました。本校の最寄りの中学校にまず声がけをしたところ、幸いにも関心を持っていただき、中学校で行っているキャリア教育とうまくつながる形だとうれしいといったご意見をいただきました。総合学習的な学習の時間で実施することや、キャリアレクチャーと実験体験を組み合わせた内容にすることなどを、中学校側と相談しながら企画していきました。

髙屋朋彰准教授(以下、敬称略) 実験体験を、中学校理科の単元に結びつけることにしました。当初「食」をテーマに考えていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大でこの題材がむずかしくなり、見ることでも楽しめる「色」をテーマに、酸化・還元反応などを取り上げました。中学1年で学ぶ内容にすることで、どの学年でも理解できるようにしました。自宅で取り組める実験キットも開発しました。


訪問型イベント「サイエンスキャラバン@スクール」。(資料提供:小山工業高等専門学校)

――学校以外の場所でも訪問型イベントをしたそうですね。

柴田 はい。まちかどに出向いて、理工系の学びと職業の魅力を伝えるもので、「サイエンスキャラバン@まちかど」とよんでいます。こちらも対面・オンライン両形式です。

なるべく交通至便な場所でおこなうことを考えました。紙のチラシをつくって、地元地域の中学校1・2年生全員に届くようにしました。ご家庭で、家族の方にも見ていただけたものと思います。

偶然的な要素もありますが、会場の建物内にコミュニティラジオ局があり、番組で予告してくださいました。これらにより、おかげさまで募集後すぐ定員に達しました。また、テレビ局にも取材していただき、イベントのようすを放映してくださいました。


訪問型イベント「サイエンスキャラバン@まちかど」。(資料提供:小山工業高等専門学校)

卒業生が等身大のトーク、VR実験室体験も――招待型イベント

――文理選択に迷う生徒たちに対する「招待型」のアプローチはどういったもので、どんな点が効果的でしたか。

柴田 まず、「ロールモデルトーク@高専」というイベントをおこないました。私たちの高専の卒業生の体験談を聞いて、リケジョライフへの夢を膨らませてもらおうというものです。高専での学生生活について、楽しかったことも大変だったことも率直に話してもらいました。親近感や現実味のある等身大トークによって、生徒たちだけでなく保護者の方々にも興味をもってもらえたものと思います。4学科の卒業生たちそれぞれが、生徒たちからの直接の質問を受けました。オープンキャンパスの日に実施し、参加者の人数を確保しました。

もう一つ、「ラボ見学@HP」も実施しました。高専のさまざまな実験室をウェブ上で見学し、理工系分野への関心を広げてもらう企画です。対面形式でおこなう予定でしたが感染症の影響でむずかしくなり、配信形式にしました。高専の女子学生2人が、先輩の5年生の「リケジョの卵」たちがいる実験室を訪ね歩くストーリー仕立てにしました。また、ヴァーチャルリアリティで実験室のようすを見ることができる企画も試行しました。


招待型イベント「ロールモデルトーク@高専」。(資料提供:小山工業高等専門学校)

キット送付でリモートながら実験――体験提供型

――理工系分野選択に迷う生徒たちへの「体験提供型」のアプローチについてはいかがでしょう。

柴田 「ラボ体験@公開講座」を実施しました。公開形式の実験体験を通して、特定の分野への関心を高めてもらうものです。実験室にきていただきたかったのですが、やはりコロナ禍の影響でオンライン形式としました。草木染めをシリーズテーマにしてコンテンツをつくり、文学と科学を組み合わせた内容の講座を展開しました。

オンライン開催になってしまいましたが、キッチンで扱える安全な実験キットを参加者の家々に送付し、高専の実験室からのライブ配信で、実験の手順などを説明しました。リモートながらいっしょに実験の体験をしていただきました。


体験提供型イベント「ラボ体験@公開講座」。(資料提供:小山工業高等専門学校)

ロールモデル紹介パンフレットを発行、紙媒体として配布

――ほかに活動の実績はありますでしょうか。

柴田 広報企画として、『ミネルヴァ』という理工系分野で活躍する女性のロールモデルを紹介するパンフレットをつくり、地域の中学校の女子生徒1・2年生に配布しています。チラシとおなじく紙媒体なので、ご家庭に持ち帰って、ご家族や知人にも見てもらうことができます。ロールモデルとなる女性の方は、商工会議所との連携を通じて地元企業から募集しました。企業内でも女性エンジニアたちへの注目度が上がったのではないでしょうか。

髙屋 私たちの高専からも、各学科から女子学生数人に紙上トークを繰り広げてもらいました。イベントに参加したくてもスケジュールの都合でできないような中学校に対しても、こうした媒体で広報活動ができることは有効だと思っています。

柴田 広報企画の一環で「リコ★キャリ キャラクター・コンテスト」を実施したところ、「リコ★キャリ大賞」と「ミネルヴァ賞」に入選した生徒のなかに、小山高専の志望者がいて、入学してくれました。「やると響くことがある」と感じることができました。


広報企画。(資料提供:小山工業高等専門学校)

取り組みをSTEAM人材の早期育成に展開

――これまでの活動を通しての、実感や気づきをお聞きします。

柴田 実際に中学生のみなさんと触れあえたことは私たちにとっても大きなことでした。保護者の方といっしょにロールモデルのパネルを見ながら話し合っている姿などを見ることができてうれしかったですね。

それに、高専に入学する学生は中学生のときに進路決定をある意味することになりますが、一般的には中学生の段階では文系理系という意識をあまり持っていないようだということを再認識しました。

髙屋 「サイエンスキャラバン@スクール」や「@まちかど」を担当しましたが、参加者の生徒や保護者、それに先生から「おもしろかったのでまたきました」とか「今年は去年と内容はちがいますか」とかお声がけいただき、リピーターになってもらえているのだとうれしかったですね。

保護者のみなさんには、わが子を高専に入れて、その後のキャリアがどうなるかといったことに関心も不安もおありかと思います。保護者の方々にも高専のことを理解してもらえるような情報発信が大切だと感じました。

――今後の取り組みについてどう発展させていかれますか。

柴田 STEAM教育と結びつけ、さらに展開しようとしているところです。国立高等専門学校機構のSTEAM教育強化の先進実践校として、ダイバーシティ型STEAM人材の発掘と育成に取り組んでいるところです。「体験提供型」のアプローチで、草木染めという文学と科学を組み合わせたコンテンツを展開したとお話ししましたが、こうした文理融合型の企画を発展させて、STEAM人材の卵としての小中学生の早期育成をはかっていこうとしています。

コロナ禍の影響で高専の女子学生たちに活躍してもらうことがむずかしい面がありましたが、今後は「リコ★キャリサークル」をつくって女子学生たちが前面に出て活躍できるしくみを築いていこうと考えています。

髙屋 これまでの取り組みで、プログラムのモデルをつくることができたので、これを起点にさらに題材を充実させて、新たな題材で「また参加してみたい」と思ってもらえるようにしていきたいと思っています。