「知識構築型ジグソー法」に「適切なICT活用」を加えて、子どもの情報活用能力を高める――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第12回)福岡県飯塚市立飯塚東小学校


左から、飯塚東小学校の山下弘美校長先生、金城太郎先生、後藤恭也教頭先生。

 小学校で2020年度から、中学校で2021年度から実施される新学習指導要領では「情報活用能力」が、言語能力と並ぶ「学習の基盤となる資質・能力」に位置づけられます。文部科学省は同時に、学校のICT(情報通信技術)環境を整備することをポイントとしています。

「情報活用能力とICT」。このふたつは直結した印象をあたえます。しかし、ICTの使い方さえ覚えれば情報活用能力が高まるのかというと、決してそうではありません。ICTを「適切かつ効果的」に活用することによってはじめて、その経験が情報活用能力に結びついていくのです。

 学校での授業は、先生にとっても子どもたちにとっても、ICTを「適切かつ効果的」に活用する実践の場となります。今回、私たちは、ICT機器のもつ機能をうまく組み込んで、効果的に授業をおこなうモデル的な学校を取材させていただきました。

 福岡県飯塚市立飯塚東小学校は、2016年度の日産財団理科助成を活用し、iPadのなどのICT機器を購入しました。それらを活用して子どもたちの情報活用能力向上をめざしながらも、ICT機器まずありきではない授業を心がけ、子どもたちに情報活用能力における思考力、判断力、表現力を身につけさせてきました。飯塚東小学校のこの研究の取り組みに対し、日産財団は2019年度「第7回理科教育賞」で賞を贈っています。

 同校は、「知識構築型ジグソー法」と「プログラミング学習」を基本的な学びのしくみに据え、そこに程よくICTの活用を加えています。3人の先生に、授業の具体的な進め方などを聞きました。

市はICT環境の整備に力を入れてきた

――まず山下校長先生に、学校としてめざしている教育についてお聞きします。

山下弘美校長先生(以下、敬称略) 「子どもたちの学びを大事にしていきたい」という気持ちを強くもっています。学びを積み重ねていき、経験したことを振り返りながら、次につなげていく。授業を軸として、子どもたちが生き生きとさまざまなことにチャレンジするような学校にしていきたいと、常に考えています。

 飯塚市は、市全体で学校におけるICT環境の整備に力を入れています。当校には日産財団の助成で購入できたタブレット端末などのICT機器もありますので、さらに効果的な学習をめざしていきければと思っています。


山下弘美校長先生。筑豊教育事務所の指導主事、飯塚市立目尾(しゃかのお)小学校、また立岩小学校の校長などをつとめ、2019年4月、飯塚東小学校に赴任。山下先生もまた自らで「学校通信」をつくり、 学校ホームページを通して積極的に情報発信している。

3点のめざすことを、学校のICTリテラシー目標と関連づける

――日産財団理科教育助成による研究「情報活用能力における思考力・判断力・表現力を身に付けさせる授業づくり―知識構築型ジグソー法とプログラミング学習を通して―」 について、学級担任の金城先生にもうかがいます。子どもたちに「複数の情報を結びつけて新たな意味を見出す力」「問題の発見・解決等に向けて情報技術を効果的に活用する力」「プログラミング的思考」の3点を身につけさせることをめざしたと聞きます。この3点について説明していただけますか。

金城太郎先生(以下、敬称略) はい。1番目の「複数の情報を結びつけて新たな意味を見出す力」については、飯塚市も子どもたちの育成に向けて同様のものを掲げており、それらとの結びつきを意識したものです。


金城太郎先生。飯塚市内の小学校で教諭としての勤務や、福岡県教育センターでの研修を経て、2016年より飯塚小学校の教諭に。

 2番目の「問題の発見・解決等に向けて情報技術を効果的に活用する力」は、問題解決に向けてインターネットやタブレット端末などによる情報技術を効果的に活用し、子どもたちが協力しながら解決法を見出していくことを意図しています。

 そして3番目「プログラミング的思考」については、これからの大切な学びであること、また市で先行的にプログラミング教育に力を入れていたことなどから採り入れました。

――飯塚東小学校は、学年別の情報活用能力の目標を示した「飯塚東小学校ICTリテラシー」を掲げてもいますね。今回の研究はそのリテラシー目標ともつながっているのでしょうか。

金城 はい。このICTリテラシーの目標は、福岡教育大付属久留米小学校が試験的におこなっていた科目「情報科」のカリキュラムをおもに参考にしたものです。


「飯塚東小学校ICTリテラシー」のうち、思考力、判断力、表現力に関する部分。黒字は今回の研究での「複数の情報を結びつけて新たな意味を見出す力」、赤字は「問題の発見・解決等に向けて情報技術を効果的に活用する力」、緑字は「プログラミング的思考」と結びついている。「オゾボット」(コラムも参照)と「pepper」はロボットの名称。「scratch」「RoboBlocks」はソフトウェアの名称。

――これらの力を身につけさせるために、研究ではどのようなことに取り組んだのでしょうか。

金城 具体的には、「知識構成型ジグソー法を取り入れた学習」と、「プログラミング学習」をおこない、これらの力を身につけさせていきました。

協調的な学び方が身につく知識構築型ジグソー法

――では、いま金城先生がおっしゃった「知識構成型ジグソー法を取り入れた学習」の具体的な事例についてうかがっていきます(プログラミング学習については記事末尾のコラム参照)。はじめに、知識構成型ジグソー法とはどういったものでしょうか。

金城 自分のもっている断片的な考えや情報を伝えたり、友だちの考えや情報を聞いたりすることで、自分の考えを見直し、友だちの考えを付け加えたりしながら、より深い考えや考え方を身につけることができる学習法です。東京大学の大学発教育支援コンソーシアム(CoREF)が開発しました。実際の授業では「課題と出会う → エキスパート活動 → → ジグソー活動 → クロストーク → 自分の考えを振り返る」の順に展開します。

――知識構成型ジグソー法を取り入れた授業の利点はどういったものでしょうか。

山下 協調的な学び方を、子どもたちにしっかり身につけさせられるということがあります。普段の授業を観察してみると、自分の考えをなにも話さずにいる子も実際にはいるものです。そうならずに、考えをもって自分の意見をきちんと言えるようになるためのしくみが、この知識構成型ジグソー法には備わっています。

教師の側が授業・教育にICT機器を程よく活用

――知識構築型ジグソー法を取り入れた授業では、日産財団理科教育助成で購入されたICT機器を活用したと聞きます。ICT機器の活用については、どのような考えをおもちですか。

山下「教科や授業内容に応じて、ICTを使うことが効果的と思えるところには使う」といったことが大切と考えています。知識構成型ジグソー法を取り入れた授業にもさまざまな手立てがありますからね。

――3年理科「豆電球に明かりをつけよう」で知識構成型ジグソー法を取り入れたと聞きます。ここでのICT機器の使い方はどういったものでしたか。

金城 担当した先生は、電子黒板を使いながら課題を提示していました。いきなり「はい今日は豆電球についてやるよ」でなく、その先生は課題を出すまでの導入のしかたもよく考えたうえで、電子黒板を使っていました。

 また、子どもたちの授業中の対話を、先生がグループごとにiPadで録音し、記録にしました。授業のなかで子どもの思考が変わっていく過程を把握しようとしていたからです。「この子は、この瞬間に考え方が変わったね」と教師みんなで振り返り、ほかの授業にも応用するようにしています。


3年理科「豆電球に明かりをつけよう」での知識構成型ジグソー法を使っての授業展開と、ICT機器の活用のしかた。

――録音データを文字化するときも、音声認識ソフトなどのICTを使うのでしょうか。

金城 そこは手作業でしています。

山下 普段から「先生たちも書く」ということも重視しているんです。たとえば、研究授業では、授業を見ている先生たちが子どもの発言や様子を手書きで素早くメモし、校長である私は授業している先生の発言や様子をおなじく手書きでメモします。手で書いていくと見えてくるものもあるので、自分たちで書くことも大切にしています。

子どもたちの学びにもICT機器を程よく活用

――知識構築型ジグソー法を取り入れた学習で、子どもたちの側がICT機器を使うこともありますか。

金城 はい。たとえば、5年理科の「流れる水のはたらき」があります。この授業では、子どもたちがエキスパートA・B・Cに分かれてエキスパート活動をしているとき、iPadで示すと効果的といえる資料については、iPadで示しています。


5年生理科「流れる水のはたらき」での知識構成型ジグソー法を使っての授業展開とICT機器活用。

――具体的には……。

金城 大雨によって倒れた何本もの木々が川を流れていくときのようすを写した写真資料をiPadで見せています。担当した先生は、その写真を細部にわたって見せて、「橋に流木が引っかかることで、そこから水が溢れて洪水になることがある」ことを子どもたちに気づかせようと意図していました。iPadでは、画像の拡大・縮小ができるので、子どもたちが思い思いにその写真を眺めていくなかで「あ、ここに橋がある!」と気づくように導いたわけです。

 また、もうひとつのエキスパート活動のチームでは、おなじくiPadを使って、降水量のグラフと河川の水かさが増していくライブカメラ画像を示して、この二つに関係性があることを気づかせるようにしていました。

 ただし、もうひとつのエキスパート活動では、とくにICT機器を使う必然性がなかったため、プリントした紙の資料を配布しました。

――ほかにこの授業で子どもたちがICT機器を使う場面はありましたか。

金城 はい。クロストークの場面で、子どもたちは電子黒板を使って発表しました。手元の画像やそこに書き込んだ情報を大きく写すことができます。さらに、ペンで書き込んだりもできます。電子黒板は子どもたちに説明させるときにも、とても役立ちます。


取材では教頭の後藤恭也先生にも同席していただいた。教師歴は30年。知識構成型ジグソー法の授業での活用について「子どもたちどうしが課題に向かって練り合うところが重要です。その経験はかならず次に生きてくるものです」と意義を強調する。

ICT機器を使わせることを目的にしてはだめ

――子どもたちにとったアンケートでは、「観察や実験が好き」や「予想をもとに計画を立てる」といった項目で、全国学力・学習状況調査の平均をそれぞれ約5ポイント上回ったそうですね。顕著に成果が表れているように思えます。こうした成果を、どう捉えていますか。

金城 子どもたちに興味・関心をもたせるようなやり方を、先生たちが日々考えてきたことが大きかったのだと思います。

 ただし、なにをどうやったから効果が現れたのか、その要因を明確に掴めたわけではありません。それを検証するテストなどのしくみをつくって、より効果的なICTリテラシーの身につけさせ方を探り、また、それを効果的に位置づけるカリキュラムをつくっていくこと。この二つが課題だと思っています。

――最後に、山下校長先生に、特定のツールを活用するときの要点と思われることと、今後に向けての抱負をお聞きします。

山下 子どもたちにジグソー法をさせたり、ICT機器を使わせたりすることが目的になってしまったらだめなのだと思います。「子どもたちを伸ばす」ということを主軸に置いて、そのやり方をどうするかを教師がよく考えることが大切だと思います。

 その一方で、教育におけるICTの活用が迫られていることもまた事実です。世の中がどんどん進んでいるのに教育は遅れているといった状況にならぬよう、教育も進めていかなければなりません。効果的にICT機器を使っているときの子どもたちの表情は、生き生きと変わります。この手段をより有効に活用していければと考えています。

■取材を終えて 西本清一


 ICTを「よい按配に」活用されているという印象です。山下校長先生も同様のことを言っておられますが、ICTを使うことだけに偏ってしまうと得られるものがありません。土台にきちんとした学びのしくみ、今回の研究でいえば知識構築型ジグソー法がある上で、ICT機器を取り入れる。そうすることで、子どもたちの能力は高まっていきます。

 おもしろいなと感じたのは、「流れる水のはたらき」での流木の示し方です。「気づかせる」というプロトタイプ的な教育メソッドのなかで、画面を拡大・縮小できるiPadを使っておられます。教育現場では、ICT機器を買ってもうまく使いこなせないことはよくあることですが、飯塚東小学校は効果的に使えていると感じました。

 ぜひ、研究活動の記録をまとめて社会に向け発信し「飯塚東メソッド」として定着させていってほしい。そう願っています。(日産財団 理事・元選考委員長、京都市産業技術研究所 理事長)

●コラム プログラミング学習でもICTを効果的に活用


3年総合的な学習の時間「オゾボットを動かそう」のさまざまな授業風景。プログラミング学習でもICT機器を適材適所に取り入れている。

 今回の研究で、飯塚東小学校の先生たちは、プログラミング学習の授業もおこなってきました。3年の総合的な学習の時間では、世界最小のプログラミング教育用ロボット「オゾボット」を活用。太線の上を走るロボット。シールを使って効率よくロボットが回るコースをつくっていきました。

「ただロボットを動かすだけでは、子どもたちの意欲も興味もわかないと思うので、『きょうのミッションは、宝箱を3個とらせること』といった具合に、明確なゴールを設定しました」(金城先生)

 この授業でも、先生が電子黒板で効果音とともにミッションを示したり、子どもたちがそれぞれにつくったコースをiPadを介して共有したりと、効果的にICT機器を活用しました。アンケートでは90%以上の子どもたちが、この授業に肯定的な回答をしたそうです。